第134話
「――!」
幽楽町を覆い尽していた妖力が、グラリと揺れた事を感じる。この妖力は明らかに焔だと分かっていても、とても自分たちが介入出来る相手ではないと悟ってしまう。
それ程、焔の妖力は凄まじいと感じざるを得ない。だがしかし、その妖力を感じながら、目を細めて己の鼓動を感じている少女の姿があった。
「……」
鬼組の屋敷内から灰色に染まった空を見つめ、少女はユラリと身体を揺らして屋敷の屋根へと登った。やがて負傷から回復した烏丸が、その少女の姿を見つけて呟いた。
「……魅夜、様?」
烏丸の呟きは聞こえる事なく、灰色の空を見つめ続ける魅夜は口を開いた。
「呼んでる」
「……?」
何を言っていたのか聞こえなかった烏丸は、小首を傾げて魅夜の事を見つめた。その瞬間、魅夜は瞬間的に屋根から姿を消して隣の建物へと着地した。
やがて四つん這いとなり、まるで獣にでもなったかのように屋根から屋根へと移動し始める。その姿を見た烏丸は、ハッとした様子で空へと翼を広げて飛んだ。
「(魅夜様の移動速度は、予想出来ない。ここは一番近い幹部の方にっ)」
そう思った烏丸は移動を始め、幽楽町全体が見える崖の上に待機していた刹那の姿を見つけて着地する。
「せ、刹那様っ」
「烏丸?傷が癒えたのですか?」
「は、はい。……そんな事よりも、刹那様。魅夜様が」
「魅夜が、どうか致しましたか?」
烏丸は自分の見た物を刹那に説明した。それを聞いた刹那は、少し考える仕草をしてから町全体へと再び視線を向けた。そして背後で焦っている様子の烏丸の姿を見ずに告げる。
「――恐らく大丈夫でしょう。魅夜は今、立派な私たちの仲間です。何が正しい行動かというのは、考える余裕はあるはずです。私もこの揺れている妖力を突き止めたい気分ですが、生憎と見張る物があります。ここは魅夜に任せましょう」
「ですが……魅夜様も半妖です。もし、暴走する事があれば」
「その際は、焔様が直々に処分を考えて下さるでしょう。私たちの総大将は、そういう方ですよ?烏丸」
「……」
「どうしても心配ならば、貴女に監視を任せます。今から飛べば、空中からの観測は出来るでしょう?そこで見届けなさい。我らが総大将に弓を引くようなら、貴女の判断で動いても構いませんよ」
その言葉を聞いた烏丸は、息を呑んで真剣な表情を浮かべる。やがてその場から移動した烏丸は、刹那の言葉通りに魅夜の事を追った。
再び一人となった刹那は目を細め、烏丸の報告にあった魅夜の事を思い浮かべる。
「……半妖同士、妖力は惹かれ合う。焔様、どうかご無事で……――」
そう呟く刹那。だが刹那は知らない。もう一人、魅夜と同じタイミングで焔の妖力に身体が反応し、再び妖力が復活した人物の事を。
「ぐっ……」
「て、テメェ、何して……」
倒れる綾と杏嘉は、倒れたまま刀を出現させる彼女を見つめる。やがて紅の髪が風で揺れ、鈴の音が響き渡る。その姿を見た狂鬼は、動揺した様子で彼女を見る。
「茜、姉さん……?」
「ごめんね、狂鬼。……私、行かなくちゃ」
そう呟いた彼女――茜は狂鬼に手刀で気絶させた。足元に倒れる彼女たちをそのままにして、半妖の力が戻った茜は目を細めてから駆け出した。
そして迷う様子も無い足取りで、前だけを見つめて呟くのである。
「待っててね、ほーくん」
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