第118話

 ――時は遡り、数百年前。


 未だに黒騎士最強の椅子に座っていたのが焔鬼だった頃、酔鬼は茜のある言葉を信じて焔鬼に組手をして欲しいと頼み込んでいた。


 「……オレに組手の相手を?」

 「あぁ。あんたならよぉ~、ちゃんと強い部分と弱い部分、その両方を見極めてくれるって姫さんがよぉ~」

 「またあいつ余計な事を」

 

 酔鬼の言葉を聞いた焔鬼は、嫌悪に満ちた眼差しを酔鬼に向けながらそう言った。そんな様子を眺めつつ、酔鬼へと体を向ける焔鬼は後頭部に手を添えながら言葉を続ける。


 「――仕方無い。少しだけなら付き合ってやる」

 「おぉ、本当かぁ~。助かるぜぇ、焔鬼ぃ~」

 「気安く肩を組むな」

 「……悪ぃ悪ぃ。だがよぉ~、姫さんが言ってた事は大体に嘘は無いだろぉ?あんたに鍛えてもらえれば、強くなれるって俺は聞いたぜぇ?」

 「……本当に余計な事を言ってくれたな、あいつ。ただ酔鬼は遠距離で、オレは近距離だ。教えられる事は少ねぇぞ」

 「構わねぇぜぇ~、俺が知りたいのは近距離を得意とする奴と対峙した場合だぁ。焔鬼は近距離だろぉ?」

 

 肩を組まれながらそう言われている焔鬼は、渋々という雰囲気で了承した。そんな彼らの様子を眺めていた蒼鬼と蘭鬼は、並びながら言葉を交わしていた。


 「……あれを見てどう思うかのう?蒼鬼」

 「私に何か関係があれば首を突っ込んだが、私に何も関係の無い事であればどうでも良い。私が関与する必要性も、その必需性も無いと思うのだが?」

 「童もどうでも良い事だが……明らかに焔鬼様は嫌がっているように見えるのじゃがのう」

 「……だがあれでも面倒見の良い奴だからな。恐らく普通に組手の相手をするだろうな」

 

 そう言っている蒼鬼は、やれやれと肩を竦める。そんな蒼鬼の言葉を聞きながら、当時は生きていた蘭鬼は目を細めて焔鬼と酔鬼を見つめた。

 だがすぐにその目を逸らし、蘭鬼は溜息混じりにその場から離れた。


 「さぁ焔鬼ぃ、俺に戦い方を教えてくれぇ」

 「……はいはい」


 そんな言葉を交わしながら、焔鬼は渋々という雰囲気のまま酔鬼と共に姿を消した――。

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