第119話

 「――じゃあ、そうしよっかな」


 茜はそう言って、酔鬼の死角に入り込んだ。そんな茜の行動を見据えた酔鬼は、移動先を予想して茜の眼前に銃口を構えた。その銃口を見た茜は、再び移動を繰り返して錯乱させる。

 上下左右に移動する茜に対し、酔鬼は目を細めて狙いを定め続ける。だが酔鬼はすぐに引き鉄を引き、茜が接近しようとするのを抑える為に撃ち続ける事にした。


 「くっ……」

 「そう簡単に近付けさせる訳ねぇだろぉ、姫さんよぉ」

 「私の刀の間合いを知ってるなら、その行動も無駄だと思うんだけどなぁ」

 「さっきまでの勢いはどうしたんだぁ~?」


 酔鬼の挑発にも似た言葉を聞いた茜は、弾丸を回避しながら移動を繰り返す。酔鬼を見据えているが、攻め切れない事を理解出来ている茜は思考を働かせる。

 距離を詰めようにも詰められないのを良い事に、酔鬼は周囲の気配を探りつつ茜を応戦する。刀を持っているといっても、茜の持つ実力では酔鬼には遠く及ばない。


 「……」


 茜の事を詰めないようにする酔鬼の事を眺め、攻撃が出来る瞬間を見定めながら下で倒れる彼女たちの元へ向かうハヤテ。意識はあっても、戦える状況ではない彼女たち――綾、杏嘉、狂鬼の様子を確認する。


 「大丈夫そうっスね。命に別状が無いのなら、俺も茜さんに協力をした方が……」


 そう呟きながらハヤテは下から酔鬼の事を見据えるが、チラっと酔鬼は真下に居るハヤテに一度視線を向ける。その視線が重なったと理解するハヤテは、現状では勝ち目が見えない所為で行動が出来ない。

 目に見えない圧力がある事で、ハヤテを牽制している酔鬼は口角を上げる。その笑みを浮かべた表情を見た茜は、ムスッとした様子で口を開いた。


 「私を攻めさせないようにするの、そんなに楽しい?」

 「……あぁいや、誤解しないでくれぇ?俺はただ、あんたに協力しようと頑張ってる奴が居るなぁ~と思っただけだぁ」

 「どうだか……余所見なんかしてるとまた足元を掬われるよ?」

 「そうなったら返り討ちにするだけだなぁ~。だがそろそろ、俺もこうしてるのが面倒になって来たなぁ」


 そう言った酔鬼は、ニヤリと笑みを浮かべて茜を見据える。妖力がその場を圧し付ける感覚を感じた。その雰囲気を感じた茜は、背筋を凍らせる感覚に襲われる。


 「……そろそろ、本気でやらせてもらうぜぇ?」

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