第117話
「一刀……無茜」
静かに呼吸しながら呟いた瞬間、茜が構えた紅色の刀はその姿を伸ばした。やがて茜が突きを繰り出すと、躊躇なくその刀身は酔鬼へと伸ばされた。
「っ……くっ」
「あ、避けられた」
空中で身を翻した酔鬼は、銃で刀を受け流して回避した。それを見た茜は呟きながら、目を丸くしながら刀身を元の大きさに戻しながら言葉を続ける。
「あんな状況から、良く避けられるよね。黒騎士って、本当に身体能力良いよね。ちょっとだけ羨ましいなぁ」
「……姫さんよぉ、何のつもりだぁ?」
刀を退いて破損してしまった銃を消失させ、酔鬼は目を細めて茜を見据えた。睨み付けられた茜はニコリと笑みを浮かべ、刀を鞘に納めながら言った。
「特に理由は無いよ。ただ私がそうして欲しいって言ってたから、さ」
「あぁ?」
「言ってる意味が分からないって顔だね。けど大丈夫だよ、それが正常の反応だから。けどね、酔鬼……それでもほーくんは、私の事は理解しちゃうんだよ。私が何をしたいかとかどうしたいかとかどう思ってるとか、全部ぜーんぶバレちゃう」
「何が言いてぇ?」
「とどのつまり、酔鬼じゃほーくんには勝てないよ。未来永劫、絶対にね。それに私の事も倒せないと思うよ?ほーくんみたいに理解していないと、私の行動は予想出来ないし」
「やってみるかぁ?」
「良いよ。特別に相手してあげる。本当は普段から戦っちゃいけないとか言われてたんだけど……面倒な付き人はこの世界には居ないし、もう……良いよね?」
そう言った瞬間、酔鬼の視界から茜の姿が消失した。目を見開いた酔鬼は、銃を出現させながら気配を探る。周囲を観察した結果、その気配が移動し続けている事が分かった。
把握した酔鬼は、茜の移動距離や速度に合わせて銃を構える。銃を構える酔鬼は横目で確認しながら、茜はニヤリと口角を上げながら一歩指を立てて言った。
「残念。この私は外れです♪」
「(また式だぁ?遊んでやがるなぁ、姫さんよぉ)他人をおちょくるの大概しろよぉ姫さん」
「分かった。――じゃあ、そうしよっかな」
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