第114話
「良いよ、触れても。……その手がどうなるかは、保証しないけど」
茜がそう言った瞬間、その場に居る全員に茜の妖力が跳ね上がる。それを感じた杏嘉は、咄嗟の判断で距離を取った。そんな杏嘉の様子を見る茜は、首を傾げてニコリを笑みを浮かべて言った。
「うん。物分りの良い子は好きだよ、私」
「(今の寒気は一体……まるで総大将に歯向かった感覚がっ)」
全身を圧し付けられる程の妖力を感じ、杏嘉は冷や汗を頬に伝いながら茜を見据える。そんな中で狂鬼は武具を出現させ、杏嘉に向かってその武具を振るった。
「動くなっ、女狐!!」
「(こいつ、やっぱりっ……綾の馬鹿野郎がっ!!)」
茜の前に立ち塞がっていた狂鬼は、杏嘉へと躊躇なく武具を振るった。だがその武具は杏嘉の顔面の横を素通りし、その奥でガキンという金属音が響いた。杏嘉は狂鬼の瞳に映っているのは、自分自身の背後に居る存在が居たと理解した。
「おいおい狂鬼ぃ~、また俺の邪魔をする気か~?懲りない奴だなぁ~、おい」
「(いつの間に、アタイの後ろに!?……こいつ、アタイを助けたのか?)」
「何してる!!早くそこを退け!!女狐っっ!!!」
酔鬼が腕を伸ばした瞬間に狂鬼はそう声を上げた。その声にハッとした杏嘉は、煙管を咥えて目を細める綾の隣へと移動する。杏嘉が移動したのを確認した狂鬼は、目を見開いて酔鬼へと武具を振るう。
「――纏い、鬼神・阿修羅!!!」
狂鬼は纏いを発動し、力技で酔鬼へ全武具を放出する。瞬間移動の繰り返しで回避する酔鬼の動きを読み、瞬く間に酔鬼の移動先へと回り込んだ狂鬼は大斧で真下へと叩き込む。
地面へと急降下した酔鬼は衝撃波と砂埃に塗れて見えなくなり、狂鬼は空中で膝を付くようにしゃがみ込んだ。同時に纏いを解けてしまい、肩で息をしていた。
「やったのか?あいつ」
「そう簡単に殺られる奴じゃないじゃろう。特にあの鬼っ子が最初から全力で挑む時点で明白じゃ」
「もう妖力が底を尽きかけてる。助けるか?」
「ほう?杏嘉ともあろうものが、正気かのう?あの者は一応、お前さんの仇なんじゃろう?」
「ぐっ……んなの分かって――」
―――――!!!
「黒騎士相手に纏いを発動するって事はよ~、狂鬼ぃ。……その意味が分かってるのかぁ?」
砂埃を払い、妖力を跳ね上げる酔鬼は首を鳴らす。真上でしゃがみ込んでいる狂鬼は、奥歯を噛みながら再び纏いを発動させようとした瞬間だった。
「……っ!?」
「――それは宣戦布告だ。なぁ?狂鬼ぃ」
眼前へと距離を詰めた酔鬼は、今までよりも遙かに速い速度で接近した。そしてカチャリと銃口を狂鬼へ向け、目を細めて引き鉄を引くのであった。
「……
「――――!!」
その言葉を発した瞬間、狂鬼の体を砲弾が貫いた。酔鬼へと手を伸ばした狂鬼だったが、すぐに空中から落下していく。徐々に遠くなっていく酔鬼に対し、狂鬼は落下しながら手を伸ばして呟いた。
「焔、鬼……にい、ちゃん…………」
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