第115話

 「……儚い幕締めだったなぁ、狂鬼」

 「「――――っ!!!」」


 そう呟いた酔鬼の背後から、急接近した綾と杏嘉が牙を剥く。真下へと落ちていく狂鬼を眺めながら、背後から攻撃を放つ綾と杏嘉の攻撃を回避する。顔を向ける事なく、片手間のように移動した酔鬼は面倒そうに呟く。


 「あぁ?まだやる気のある奴が居るのかぁ?勘弁しろよぉ~」

 「「――――!!!」」

 「はぁ……仕方無ぇなぁ」


 そう言いながら酔鬼は再び銃を出現させ、目を細めて綾と杏嘉を交互に見据えた。力任せに動く杏嘉に合わせ、綾が蜘蛛の糸を使って援護している。連携が取れている分、どちらを狙えば良いのか酔鬼は把握した。

 

 「まずはお前からだなぁ、蜘蛛女ぁ」

 「っ!?」

 「綾っ!!」


 力任せに攻撃を繰り出す杏嘉の動きを読んだ酔鬼は、瞬く間に綾の前に姿を現した。動きを目で追えなかった杏嘉は、振り返りながら酔鬼を見据えて口を開く。


 「させねぇよ!!――妖術・夢幻妖狐!!」


 九尾姿となった杏嘉の妖力を感じた酔鬼は、背後に迫った杏嘉を見ずに綾を見据えた。目を細めながら開いた口から出た言葉を聞いた綾は、目を見開いて杏嘉に言うのである。


 「銃使いが背後をがら空きにしてる理由、それがお前に分かるかぁ?蜘蛛女ぁ――」

 「っ……杏嘉っ、ワシの方に来るでない!!!!」

 「っ!?」


 綾の言葉を聞いた瞬間、杏嘉は疑問と同時に確信した。何故なら、視界に映る酔鬼は、杏嘉を見ずに腕の間から銃口を自分へ向けたのが見えたからだ。肘と脇の間から見えた銃口からは、狂鬼を貫いた砲弾が顔を見せていた。


 「――それはなぁ、背後を取られても問題無ぇからなんだぜぇ?」

 「杏嘉っっっ!!!!!!!」

 「くっ……」


 その言葉と同時に引き鉄を引いた酔鬼。放たれた砲弾は杏嘉に直撃し、青白い輝きに杏嘉は包まれる。やがて空中には爆風が舞い散り、何も見えない状況で綾は少しだけ距離を取って酔鬼を睨み付けた。

 

 「んあ?糸で俺を拘束しても意味が無いぞぉ、蜘蛛女ぁ」

 「それなら問題無いのう。拘束じゃなく、絞殺するなら話は別じゃ!!」

 「憎悪に満ちた良い眼だなぁ、そのまま俺を殺してみるかぁ?」

 「っ……――!!」


 その言葉に堪忍袋の緒が切れた綾は、糸を絡めた指を引いて酔鬼を強く拘束する。


 「ん~、これは動けねぇなぁ」

 「あの世で後悔するんじゃな!!――妖術・雀死鋼殺じゃくしこうさつ!」


 蜘蛛の巣ではなく、孔雀の羽の模様のようになった糸。縛り付けられながら、それを見た酔鬼は目を細めたまま口角を上げた。


 「良い景色だなぁ、これは」


 そう呟いた瞬間、拘束していた綾から血飛沫が飛び散った。それに驚いた綾は、絞め殺したはずの酔鬼へと視線を向ける。


 「っ……!?」

 「……良い技だったがよぉ、ちと足りないなぁ。それじゃ俺は、殺せない」


 首に手を添える酔鬼は、切り傷や擦り傷を負っていても微動だにしていない。気にせず手の甲に付着した血液を舐めながら、銃口を綾に向けて口を開いた。


 「なぁ、蜘蛛女ぁ……お前がいつ撃たれたのか、教えてやろうかぁ?」

 「っ……(ワシの拘束が解けていく。確かにワシは奴を拘束し、そのまま首を落としたはずじゃ。逃れるには、拘束前に逃げるしか方法は……っ、まさか?)」

 「幻影虎砲げんえいこほう。これがその種だぁ」


 それを放った酔鬼の目の前で、もう一人の酔鬼が出現した。分身の術のように増えた酔鬼は、どちらも面倒そうにしながら同時に言うのであった。


 「さよならだなぁ、蜘蛛女ぁ。あの世で狐に宜しくしてくれぇ」


 そう言った酔鬼は、分身と共に引き鉄を引いた――――。

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