第113話
「まずは、一匹目だ」
酔鬼はそう言いながら、目の前で目を見開くハヤテへと武具を向ける。出現した武具はカチャリと音を立てて、ハヤテの額を躊躇なく捉えている。それを察したハヤテは、ハッとした様子で回避行動を取った。
――ダンッ!!
「んあ?……んだよ面倒な奴だなぁ~、お前」
「はぁ、はぁ、……っ」
背後へと回り込み、斜め上へと移動したハヤテは酔鬼を睨む。そんな視線を受ける酔鬼は、振り返りながら見上げて目を細める。後頭部を掻きながら、面倒そうな表情を浮かべる。
「大した速度で移動したもんだなぁ~……」
「……(俺より速く移動してた奴が何言ってやがるっスか)」
酔鬼の言葉に対してそう思いつつ、ハヤテは酔鬼の様子を伺う。見下ろし、見上げ、互いに視線を交わす彼ら。そんな彼らの様子を眺めながら、狂鬼の背後に立っていた茜は目を細めて口を開いた。
「ねぇ、狂鬼ちゃん……どっちが勝つと思う?」
「な……何でオレがそんな事」
「答えられない?私の立場なんて有って無いよう物だから、気にしなくて良いよ。率直な意見を聞かせてくれる?」
「……オレは、酔鬼が勝つと思う」
「ふ~ん、そっか」
狂鬼のその発言を聞いた茜はそう呟いたが、その言葉に対して動揺していたのは綾と杏嘉だった。茜の様子から雰囲気が変わっている事に気付いた綾は、訝しげに茜の事を見ていた。
杏嘉は仲間であるハヤテが敗北するという発言を聞いて、茜の事を睨むような眼差しを向けていた。その視線に気付いた茜は、ニヤリと笑みを浮かべて狂鬼と共に下へと降りる。
「――先に言っておくけれど、私は敵じゃないよ。女郎蜘蛛の綾さんに妖狐の杏嘉さん」
「……ワシは何も言っておらんのじゃがのう」
「んな事はどうでも良い。ハヤテが負けるっていう話は本当なのか?あぁ?」
煙管を咥える綾とは違い、杏嘉は睨み付ける様子で茜へと近寄る。だがその行動を遮るようにして、狂鬼は茜に近寄る杏嘉の前に出て立ち塞がった。
「……気安く近寄るな、女狐。茜姉さんには、指一本触れさせない」
「あぁ?何言ってんだテメェ……――っ!?」
――――――!!!!!!!!
杏嘉がそう言って茜へと視線を戻した。その瞬間、綾と杏嘉は目を見開いて茜の事を見た。何故なら、ニッコリと笑みを浮かべている茜の妖力がぐっと跳ね上がったからである。
「良いよ、触れても。……その手がどうなるかは、保証しないけど」
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