第112話

 「――ぐぉっ!?」


 茜が指先で酔鬼の額に触れ、そしてすぐに手の平をかえして親指で中指を押さえる。そして親指を軸に中指を解放し、酔鬼の額を小突いたのである。


 「どう?酔鬼。私のデコピンの威力は……」

 「ぐ……っ」


 そう言う茜の言葉に対し、酔鬼は後方へと飛んだ自分の体を空中で立て直した。やがて空中で見えない足場へ着地した酔鬼は、額を片手で押さえながら面倒そうな様子で目を向ける。


 「姫さんよぉ~、ただのデコピンでこの威力は女としてどうなんだぁ?」

 「そこまで本気出してないよ。失礼だな。……それに酔鬼はこの程度、別に痛くも痒くも無いでしょ?」

 「……」


 目を細めながらそう言って小首を傾げる茜。その視線に微かな冷徹さを感じながら、酔鬼は後頭部を掻きながら視線を返す。だがその視線はすぐに茜から外され、また面倒そうな様子で狂鬼へと視線を向けて口を開いた。


 「姫さんが何をしようが、今更俺には関係の無ぇ事だ。だがよぉ~、そこに居るチビは違うよなぁ~?なぁ、――狂鬼」


 ――ゾクッッッ!!!!!


 その場一帯を覆う寒気は、その場に居た全員の身体を圧迫する。まるで心臓を握られたような感覚が、狂鬼たちを圧迫感が襲い圧し掛かる。


 「……(なんなんスか?この妖力はっ……アニキと同じ、いや、下手したらそれ以上じゃ!?)」


 その妖力を浴びていた者の中、ハヤテは自分の妖力を微かに上げて圧迫感を緩和しようとした。だが、その瞬間に酔鬼は目を細める。

 自分の妖力、その場に居合わせている者の妖力、違う場所で戦っている者の妖力……その全てを把握しており、そしてそれはハヤテも例外ではない。少しでも妖力に変化が起きた場合、酔鬼にとってその行動は――


 ――監視対象から排除対象へと変わる瞬間である。


 「お前さん、妖力を上げたなぁ~?」

 「――っ!?」


 突如として眼前に迫った酔鬼は、そう言ってカチャリと金属音を響かせる。その瞬間に目を見開いたハヤテは、二つの事を理解した。

 一つはこのゼロ距離で向けられた銃口は、ギリギリで回避出来る可能性があるという事。だが、それも驚いていた事があったのだ。


 「っ!(……奴の動きを、目で追えなかった)」

 「まずは、一匹目だ」

 

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