第95話
重く圧し掛かる程の妖力がもう一つ、違う場所で気配を出し始める。その気配を察知した綾と杏嘉は顔を見合わせて会話を交わしていた。
「この気配、どう思うよ?綾」
「さぁのう。強敵……じゃろうが、今は村正が向かっておったはずじゃ」
「あいつ一人でか?大丈夫かよ。あっちに居る奴、相当やるんじゃねぇか?」
その杏嘉の言葉を聞いた綾は、後ろに居る者に視線を向けた。そこには、頑丈な糸で縛れた狂鬼がムスッとした表情を浮かべて座っていた。苛立っている様子なのが一目瞭然だが、そんな事を気にせず煙管の先で狂鬼の額を小突いて綾が問い掛ける。
「……どうなんじゃ?お主なら、共に来た仲間の実力を知っておるじゃろう?」
「ハッ、んなもん教える訳ねぇだろうが。馬鹿かよババア」
「ぐっ、ほ、ほぉ?」
――ピクピク。
綾は頬を引き攣らせながら、笑みを浮かべて狂鬼へと詰め寄った。間近まで近寄りながら、小突いた時よりも強く煙管を押し付けてもう一度言った。
「――よぉ聞こえなかったのう?ん?お主、今ワシになんと言ったかのう?ん?」
「ババアにババアって言って何が悪いんだ?あぁ?」
「ぷっ……」
笑みを浮かべながらムカッとしている綾に対して、臆す事なく狂鬼はそんな事を言った。その横でクスっと笑みを溢した杏嘉をギロリと綾は睨んだ。
「鬼っ子、ちと待っておれ?そこに居る
「あぁ?ちょ、ちょっと待てって綾!!そんな事してる場合じゃねぇだろ!ぎぃ、――ああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
パンパンと手を叩く綾の真上で、木に縛り付けられて宙吊りになった杏嘉が物の数秒で出来上がった。そんな様子を見て狂鬼は、戸惑った表情を浮かべていた。
「……お前ら、仲間じゃねぇの?」
「仲間じゃよ?表面上は、じゃがの」
「おらぁー!!降ろせよ馬鹿野郎っっ!!殺す!ぜってぇ殺す!!」
「……良いのか?殺すとか言われてるぞ」
「構わんよ。別に出来やしないからのう。それにあのまま放置しても、どうせ数分後には自力で解いて脱出する奴じゃ。それよりも、じゃ。……あっちの居る者は、強いのかのう?」
「……だから教える訳」
「――あぁなりたいのかのう」
狂鬼が拒否をしようとした瞬間、その言葉を遮って綾が宙吊りになった杏嘉を見るよう促した。ジタバタを暴れながら叫んでいるが、どうも慌てようが先程よりも違う。その違いに狂鬼は嫌でも気付いた。
「うがぁぁぁあ!!おい、綾!!テメェマジで洒落にならねぇぞ!!なに眷属の蜘蛛使ってんだ!!!!うわ、変な所に入り込んでんじゃねぇ!!!マジで!!マジで綾様助けてくれ!!!」
「どうする?鬼っ子?従うか、従わないか。ワシはどっちでも良いぞ?」
「……はぁ、分かった。従うからあれだけは止めてくれよ?」
「うむ、物分りが良い奴は嫌いじゃないぞ」
「(いや、ただの脅迫じゃねぇか。こんなの)」
そんな事を思っても、口に出す事が出来なかった狂鬼である。
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