第94話

 「抜刀術……――雷光」

 「ぬぉっ!?」


 剛鬼の懐に入り込んだ村正は、低い位置からの一閃を放った。その一閃を回避する為、村正との距離を開けた剛鬼は腹部から胸の位置に掛けて手を触れた。するとそこには、明らかに村正に付けられた傷跡があったのだ。


 「ほぉ、やはり貴様の斬撃は我が断鎧鬼を貫くらしいな」

 「そう褒めても何も出ないでござるよ?剛鬼殿」

 

 剛鬼の言葉を聞き、村正は刀を納めて手を軽く振った。先程の一閃を放った者とは思えない陽気な雰囲気となり、剛鬼は訝しげに村正の容姿を改めて見つめた。

 その陽気な空気とは裏腹、滲み出ている気迫から妖力が微かに漏れている。その妖力を感じた剛鬼は、村正を見据えながら問い掛けた。


 「凄まじいな。その力を身に付けるまで如何程の時間を費やした?」

 「ふむ、そうでござるなぁ」


 その問い掛けを聞いた村正は、腰から鞘ごと刀を抜き取り低い体勢を取った。顔の半分を仮面で隠れている事もあり、剛鬼は視線で攻撃する場所を見抜くのは困難。気配のみで察知し、村正の攻撃を防ぐ必要がある。

 だがそれよりも剛鬼は、村正の放つ異様な妖力に違和感を持ち始めていたのだ。妖怪とも違う物だが、半妖ともまた違う異質な空気。それを感じ始めた剛鬼は、村正は口角を上げながら問いに答えた。


 「――、身に付けたでござるよ」


 そう告げた瞬間、村正は剛鬼の間合いに再び侵入。その動きを気配で察知していた剛鬼は、素早く懐に入り込んだ村正に腕を伸ばす。だが村正は届く前に姿を消し、剛鬼の死角へと移動していた。

 真正面から斜め、剛鬼の頭上で背後。剛鬼の首元が見える角度で、逆さまになって村正は刀を抜いた。


 ――ガキンッ!!!


 だがしかし、剛鬼の首を斬った途端に金属音が響き渡った。村正は強張らせた表情を浮かべ、目の前に居る剛鬼を見据えた。そこには、背後を見ずに斬撃を防ぐ剛鬼の姿があった。

 その剛鬼の姿を見て、村正は驚きの表情を浮かべて地面に着地した。


 「……ふはは、これは冗談が過ぎるでござるな」


 頬に伝う冷や汗が地面に垂れ、振り返る剛鬼はニヤリと笑みを浮かべて言った。


 「纏い……――夜又ノ大蛇ヤマタノオロチ

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