第77話
――鬼門前。
蒼鬼の指示に従い、剛鬼と狂鬼は複数の餓鬼を引き連れて鬼門の前に立っていた。並び立ってみれば大柄な剛鬼と小柄な狂鬼とでは、体格の規模に差異が生じているのが一目瞭然だった。
だが餓鬼たちにそれを指摘する度胸は無い。何故なら、小柄な少女のように見える狂鬼は六人衆の一人であり、隣に並ぶ剛鬼と並ぶ程の妖力と戦力を持っている。生半可に挑めば、いとも簡単に殺される未来が予想出来るからである。
「狂鬼よ。準備は怠っては居ないだろうな?」
「何を言うんだ?オレがそんなヘマをすると思ってんのか?あぁ?」
「ならば良い。黒騎士の一人である誇りを持たぬ者は、死すべき対象だ。だが、裏切り者である焔鬼は強敵だ。油断するな」
「ハッ!良く言うぜ。テメェだって焔鬼に負けた事があんだろうがっ、図体の割りにどうして勝てないんだよ、あんな奴にさ」
「図体と実力は関係は無い。あるのは、技量の差だ。あの方は、私の技量を遙かに上回っていた。それだけの事だ」
「あっそ。ま、今回はオレたちが勝てば良い話だ」
「うむ」
そんな会話を交わした剛鬼と狂鬼は、鬼門を通り人間界へと出現した。姿を現した途端、強烈な威力を持った弓矢の一撃が彼らの間を通り抜けた。
「「――っ!?」」
間を通り抜けた弓矢は、剛鬼と狂鬼が引き連れた餓鬼たちを一掃した。一網打尽の一撃を放たれ、呆然としていた剛鬼と違って狂鬼は弓を放った標的を探した。
「何処からっ……そこか!」
「っ……!?(この距離で見つかるのか。大した視野と気配感知能力だ)」
数メートル先の木の枝に乗っていた烏丸を目掛け、丸ごと抜き取られた木が投げられた。しかもそれは小柄である見た目から想像出来ない程、狂鬼は片手でそれを投げていたのである。
烏丸は再び距離を取り始め、上空に火の付けた弓矢を放った。敵襲の合図である。
「増援を呼んだか。おい剛鬼、テメェは今から来る敵を頼むぜ!オレはあの鳥野郎を斬り落とす!――ハハハハッ、見せてみろよ力をよぉ!!」
剛鬼を返事を聞かず、飛んで距離を取る烏丸を追う為に駆け出した狂鬼。ニヤリと笑みを浮かべる狂鬼の視線と重なった瞬間、烏丸は全身に寒気を走らせて弓を構えた。
「(ま、まさかっ……この距離で奴の範囲内!?)」
「そぉら行くぞっ!!!踊れよ、鳥野郎!!!」
放たれた複数の弓矢を弾いたり、回避しながら近付く狂鬼の速度が凄まじい物だった。距離を遠くなっていたと思っていた烏丸の取った距離は、いとも簡単に縮められてしまっていた。
既に攻撃を範囲内だと理解する頃には、烏丸の構える弓の目の前に狂鬼の姿はあった。
「っ……!」
「つーかまえた♪落ちろよ、カラス!」
「ぐっ……!?」
烏丸は目を見開いた。振り下ろされたのは何処から出したのか、いつの間にか狂鬼の手には武器があった。出されていたら気付く程の大きさで、三日月状になった刃先を持った鎌と力強い重量を持ったハンドアクスが両手に持たれたのである。
そんな二つの武器を見ながら、落ちて行く烏丸を見据えながら狂鬼は言った。
「――自己紹介が遅れたな。オレの名は狂鬼、黒騎士の中で唯一複数の武具を扱える者だ!トドメだぜ、カラス!!」
真下へと空中にも関わらず空気を蹴った狂鬼は、落ちていく烏丸を目掛けて槍の武具を出現させて突進した。このままでは直撃し、烏丸の胴体は槍に貫かれる。そんな未来が見えた烏丸は、両腕で防御するように交差して目を瞑って衝撃に備えた。
その瞬間だった。
「――テメェの相手は、アタイだ馬鹿野郎っ!!」
狂鬼に真横から一撃を入れた杏嘉が、烏丸の前に現れたのである。
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