第76話

 餓鬼に空中から一閃を放ち、一撃で真っ二つにした焔は刀を肩で担いだ。消滅していく餓鬼を眺めていると、餓鬼を死に物狂いで伸ばした腕が焔へと迫る。

 だが焔の事を掴む前に斬撃が数回放たれ、肩に担いだ刀を焔は鞘に納めた。バラバラになった餓鬼の腕は、黒く灰になるように消滅していった。


 「……さて、思わず表に出ちまったが……どうするかな」

 

 鞘に納めた刀を持ちながら、焔は昼間だというのに着流し姿で茜の居る教室の窓枠に跳んで来た。驚いた様子で見る視線や珍妙な物を見るような視線を浴びながら、焔は茜に手を伸ばして言った。


 「――迎えに来た。悪いが一緒に来てもらうぞ、由良茜」

 「っ……は、はい」


 一瞬ドキッとしながら茜が差し出された手を取ると、焔は置かれた手を引いて自分の元へと引き込んで片腕で抱き支える。不思議そうに眺める学生たちの視線に気付いた焔は、目を細めて学生たちに言った。


 「見せモンじゃねぇぞ、ガキ共」


 そう言った途端、焔は炎蛇を出現させて自分を含めて学生たちを包んだ。炎に囲まれた空間になった学校は、慌てる者と炎を眺める者で反応はそれぞれだった。そんな学生たちの中で、一番冷静だったのは教師陣だった。


 『皆、動くな!この炎に敵意を向けてはならない!』

 『落ち着きなさい!これは私たちを護って下さる加護だ!』


 学生たちにそう告げたが、学生たちの脳内には『?』が浮かび上がる。何を言っているのかを理解出来ない学生たちに対して、焔は微かに口角を上げて教師陣に向けて口を開いた。


 「未来ある子供たちは、お前らに任せるぞ」

 『はい。お任せを』

 『我々大人が、子供たちを護ってみせます!』

 「一応、仲間を置いて行く。だが、人間に出来る事は少ないんだ。無茶するなよ」


 教師と話す焔の姿を見て、学生たちは言葉を挟めずに居た。何故なら、教師陣は人間である事は知っている。だがしかし、教師陣と話す焔の姿が徐々に変化している事が異様に見えたからだ。

 黒髪だった髪は白髪へと変化し、額からは片方だけ角が生え始める。徐々にその容姿は人間ではない物へと変わり、自分たちとは違う存在なのだと知らしめる。


 「出来れば由良茜を置いて行きたいが、そうも言っていられない状況になりそうだ。悪いが由良茜、お前はオレと一緒に居てもらうぞ」

 「え?えっと……」

 「何も言わなくて良い。何もしなくて良いようにするから、心配は要らない」


 焔は自分の胸の中で気恥ずかしさに見舞われている茜にそう囁き、学生たちに理解させないまま窓枠から姿を消した。嵐が去ったという空気になった学生たちは、聞きたい事がたくさんあるという眼差しを教師陣に向ける。


 『これは、説明をする必要がありそうだな』

 『そのようですね。大人たちしか知らない昔話を聞かせなくてはならないわね』


 他の教室でも質問の連続となり、教師陣は焔の残した後処理に追われた。炎の壁に包まれている様子を電柱の上から眺める焔は、抱き抱えた茜に言うのである。


 「――これからお前を護る。少しの間だけ、我慢してくれ」

 

 そう告げた瞬間だった。抱えられる茜は目を見開いて、焔の背後に出現した片腕を視界に入れた。それを教えようとした茜だったが、その腕は大剣を焔へ振られるのであった。


 『護れるかな?お前に』

 「護るさ。その為に居るんだからな、オレは」


 振られた剣を刀で防ぎ、火花を散らせながら焔は言った。その瞬間に茜の心臓の鼓動は、再びドクンと大きく脈を打っていた。内側から響く声と共に、微かに浮かんだ映像と焔が重なるのである。


 「(また……重なった。夢の中に居た、あの人とこの人が……)」

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