第32話
俺の目の前で彼女の不安を取り除こうとするアニキ。力を使う必要は無いのにもかかわらず、彼女に落ち着きを取り戻させる為に使用しているのだろう。そして彼女の緊張の糸が切れたのか、アニキに抱き上げられて眠っている。
「……(姐さんが見たら殺到しそうっスね、これ)」
しかし、こんな事を考えている暇は無い。先程から感じている気配には、見覚えがあるのも気になっていた。俺たちには妖力という物を持っていて、その色濃さで強者か弱者かを判断出来る材料となる。
そしてその妖力を持つ者の中には、妖力が高過ぎてオーラとして見えてしまう者も居る。その者たちには二つのタイプが存在する。
一つはただ強者という所以にオーラが見える者。そしてもう一つは……
「そうなった経緯、聞いた方が良いっスか?チビ猫」
――何らかの原因で妖力自体を引き上げられた者である。
「……」
「だんまりっスか」
仲間になったあの日から物静かな性格なのは知っているが、それ以外は俺は全く知らない。だが、これだけは理解出来ている事がある。彼女の妖力は、今目の当たりにしている程に闇に染まっていない事だ。
何者かに引き上げられているのか、妖力が溢れ出ている事で見えるオーラの色が闇そのものだ。そんな状態となっている様子には、身に覚えのある光景として記憶している。
「……どこ?」
ユラユラと身体を左右に揺らしながら歩く彼女の見据え、俺は小さく呟いた彼女の様子を探る。この漏れているオーラの様子から見て、溢れ出ているのは負の感情しか思い付かない。
恐怖、嫉妬、憎悪、悲哀……そんな感情に包まれているような空気が、俺の肌にピリピリ伝わって来るのだ。俺は彼女を見据えたまま、もう一度確かめるようにして言葉を投げる事にした。
「チビ猫、何が遭ったか答えるっスよ。俺の声が聞こえてるなら――っ!?」
「チビ猫って、言わないで」
瞬きした一瞬だった。数メートル離れているにもかかわらず、俺の眼前にまで迫った鋭い勢いの手刀。間一髪で回避は出来たものの、回避行動が遅れていたら俺の目は潰されていただろう。
流石は猫と言った所だろうか。数多くの妖怪の中でも優れた俊敏性を持ち、優れた身体能力でアクロバットな動きを得意とする妖怪の血を継いでいる彼女。
「ハヤテ、焔はどこ?」
「今のお前に教える訳にはいかないっスね。チビ猫」
白髪の髪の中でヒョコッと見せる二つの耳とユラユラと揺れる細長い二本の尻尾。そして殺気にも似た気迫を持つ双眸は、四つん這いとなっている彼女のオーラを際立たせる彼女の名は……――魅夜、妖名は猫又である。
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