第四夜「魅夜」

第31話

 ――お前ら人間なんて、全員死ねば良いのに。


 そんな言葉を告げられた瞬間、私はその場に崩れ落ちた。全身の力が抜ける程、彼女の瞳には殺意が込められていた事が分かったからだ。

 これは紛れも無い恐怖心だ。殺意を向けられた瞬間、彼らの言っていた餓鬼に襲われた時と重なってしまった。同じではないと分かっていたのに、彼女の存在を恐怖して臆してしまったのだ。

 

 「……謝らないと……」


 私がそう呟きながら、崩れた膝で再び立とうとする。だが……恐怖心が勝っているのか、上手く立つ事が出来なくて渡り廊下の柱に多少の勢いで背中を預ける形となった。

 冷や汗が止まる事は無いまま、悔やむように上を見た。同時に肌寒さを感じたと思えば、その理由を理解する事が出来た。空が灰色に染まっていたのである。


 「はぁ、はぁ……(どうしたんだろ?足が、動かない……)」

 

 そして私は瞬きをして、そこに広がった景色に目を奪われた。


 「……そのまま動くな」


 そう告げるのは彼――神埼焔と呼ばれる人物だった。渡り廊下の塀の上に居るのか、こちらを見下ろす形となっている。そして私の身体を包むようにして、肩に手を添えながら炎を出現させていた。

 あの時、恐怖を感じた瞬間と同じように。

 

 「……(温かい)」

 「――鬼火、火竜円舞かりゅうえんぶ


 周囲に出現していた炎は、彼がそう呟いた瞬間に私と彼を包み始めた。ぐるぐると回転し、メラメラと輝く小さな炎が照らし始めた。それはまるで、私を安心させる為にともした蝋燭ろうそくの明りのようにも見えた。

 やがて小さな炎は形を変化させ、神話など物語の産物に出て来る翼を生やした動物である存在――偉大にして気高い竜へと姿を変貌させた、


 「……!」

 「安心して良い。こいつは味方だ」


 そう言いながら、彼は私の頭へと手を移動させた。ぽんぽんと軽く叩いてから、くしを通すかのようにして優しく髪を撫でていた。温かくて、とても優しく包まれる感覚が心を満たしていく。

 やがて私は目を閉じて、恐怖心が消えたかのようにして意識が途絶えたのである。


 「彼女……大丈夫そうっスか?」

 「……あぁ。一旦家に寝かせてくる。この場は任せるぞ、ハヤテ」

 「了解っスよ。大将アニキ

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