第28話

 紙パックの飲み物を片手に持ち、渡り廊下の柱に背中を預ける魅夜。そんな魅夜の隣で同じく飲み物を持ち、ストローに口を付けている茜の姿があった。並んでいるのだが、会話と呼べる程の会話は全く無い。

 静寂に包まれる中、やがてストローがガラガラと音を立てる。どうやら飲み物の中身が無くなったらしい。そのタイミングを待っていたのか、魅夜は戸惑っている様子の茜に問い掛けた。


 「……お前、どうしてボクに構うの?」

 「へ?」

 「へ?じゃない。間抜けな顔するより質問に答えて」


 魅夜の言う通り、確かに間の抜けた表情を浮かべた茜。そんな反応を見せる茜に対して、ジトッとした目を向ける。質問に答えろ、という意志を見せるように。

 そんな視線を浴びた茜は、たじたじになりながらも自分の考えを述べた。


 「ど、どうしてって聞かれても……私はただ、本当に仲良くなりたくて」

 「仲良くなっても、お前にメリットは無い。当然、ボクにもメリットは無い」

 「メリットデメリットを考えて、他人に近付く人なんて滅多に居ないと思いますよ。少なくとも私は、そんな事は考えてません」

 「どうだか。ボクにはお前が何がしたいのか、全然分からないし興味も無い」


 そう言った魅夜は、ストローに口を付けてその場から離れようとした。何の躊躇ちゅうちょも無い拒絶の言葉は、時にどんな言葉よりも凶器へと変貌へんぼうする。だが茜は、めげる様子も無く魅夜に声を掛けた。


 「私はただ――友達になりたいと思ったから!」

 「友達?」


 同じ言葉を繰り返しながら、魅夜は振り返って足を止める。茜を見る魅夜の表情は、決してお世辞にも豊かと言える物ではない。冷たく、まるで全てを拒絶したような視線を向ける魅夜は言葉を続けた。


 「ボクとお前が……?」

 「うん!」


 敬語を外して距離を近付けようとする茜は、力強く首を縦に頷いて返事をした。自分と茜を交互に指差す魅夜は、しばらく思考を働かせてから小さく口角を上げて平坦に告げた。


 「……馬鹿じゃないの?誰がお前と友人の契りを交わさないといけないの。あの時は焔の言う事に従っただけで、ボクは別にお前が喰われそうになってもどうでも良かった。――いや、寧ろ喰われれば良かったのに」

 「っ……!?」


 それは確かな拒絶だった。平坦な口調で冷たく放たれた言葉は、落ち着き始めた茜の心を再び不安定にしていく。襲われた事を思い出した茜は身震いし、その場に崩れ落ちるように地面に膝を付けた。

 そんな茜に対して魅夜は、見下すような視線を向けて追い討ちを仕掛けたのである。それは吐き捨てるような口調へと変わっていた。


 「――お前ら人間なんて、全員死ねば良いのに」

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