第29話

 「――お前ら人間なんて、全員死ねば良いのに」


 そう告げたボクは、彼女の返事を聞く前にその場から離れた。言いたかった事を言う事が出来たのが原因なのか、ボクの気持ちは不思議と清々しい程にスッキリしている。

 まるで、溜め込んでいた不満を一気に放出されたような解放感を感じる。


 「……」


 ――ドクンッ!!


 胸に手を当てようとした瞬間だった。激しく跳ね上がった脈打ちを感じ、ボクは周囲の空気が変化した事を理解した。何故なら、周囲を確認してみるとその視界はネガティブ反転していたのだ。

 まるで、ボクが居る場所だけが別の空間へと入れ替わったように。


 「……っ!(身体が、重いっ)」

 『ほぅ、素晴らしい精神力だ。この空間へと誘えば、意識すらも反転すると思ったのだがな』

 「誰?」


 感心したような声には、微かな殺気が込められている事を感じ取った。姿を現すと思っていないが、周囲を警戒する意識を途絶えさせる訳にはいかない。少しでも気を抜いてしまえば、何かに飲み込まれるような感覚が襲ってくるからだ。

 ボクは平常心を保つ為に深呼吸をし、地に両手を付けて四つん這いとなって目をカッと見開いた。


 『この妖力ようりょく……なるほど。お前は半妖はんようなのか』

 「だったら何だ」

 『面白いと思っただけだ。他意は無い。――だが、これ以上の時間を割くのは止めて置こう』

 「っ……?」


 そう告げられた瞬間、ボクを中心に妖力が集束したのを感じた。


 『さて、我々に協力をしてもらおうか。――鬼火おにび蒼円舞そうえんぶ

 

 その言葉と同時にボクの周囲で蒼い炎が出現し、それはやがて回転し始める。逃げようとしたが、ボクは全身がとてつもなく重たくなってる事に気付いた。


 「ぐっ……」

 『さぁ、お前の闇を見せてみろ。お前の持つ負の感情を!』

 「ぐぁ、がぁあああああああああっ――――!!!!」


 そして蒼い炎はボクを包み、全身を焼き尽くされるような痛みが走る。徐々に意識が遠くなり、自分の身体が言う事を利かなくなるのを感じる。ボクはかすむ視界を見つめながら、助けを求めるように腕を伸ばす。

 だが意識はそこで途絶えてしまい、現実との接点は絶たれてしまったのである。


 「ほ、むら……おにい……ちゃん……――」

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