第13話

 「――無様ですね」

 「っ!?」


 焔が姿を消したのを見計らったようにして、彼女はハヤテの前に姿を現した。その表情には何処か、勝ち誇ったような微笑みを浮かべていた。その表情を見たハヤテは、微かな苛立ちを見せながらも彼女に問い掛けた。


 「……何の用っスか。姐さん」

 「そんな邪険にしないで下さい。私は貴方の事を考えて声を掛けたんですよ?」

 「そうは見えないっスね。どう見たって俺を煽りに来たようにしか見えないっスよ」

 「それは大変な被害妄想ですね」


 ふふふ、と笑みを浮かべる刹那。そんな刹那に対して、ハヤテは目を細めて威嚇した視線を向ける。だが刹那はそんな視線には臆す様子も無く、未だに微笑みながらハヤテに近寄る。


 「――あの人の右腕、やはり私が変わった方が宜しいですか?」

 「……!」

 「そんなに睨まなくても冗談ですよ。私に右腕を選定させる権利は無いですもの」

 「なら、アニキへの宣戦布告って事っスか?」

 「それこそ論外ですね。私にはそんな意志は無いですし、あの人の重荷になるのは勘弁したい所ですからね」


 冷ややかな笑みを浮かべて、艶のある雰囲気で頬を染める刹那。そんな彼女を睨みながらも、ハヤテはナイフを取り出して逆手に持つ。構えを取ったハヤテに対して、刹那は目を細める。


 「武器を収めなさい。いくら貴方といえど、私には勝てませんよ」

 「やってみなきゃ分からないっスよ」

 「これまで何度も私に敗北を飾り、何度もあの人に無様な姿を見せたのは何処の誰ですか?」

 「ぐっ……」

 「それに、あの人にこんな私闘を見られれば連帯責任ですよ。右腕ともあろう者が、あの人に迷惑を掛けるのですか?」

 「っ……チッ。ああ言えばこう言う。相変わらずっスね、姐さん」

 「性分ですから」


 刹那はそう言って、ハヤテの真横を通る。スッと姿を消し、気配が遠くなるのを見届ける。そう感覚的に把握しながら、ハヤテは深呼吸をして平常心へと立て直していく。

 そして誰も居ない空を睨みながら、ハヤテはただ一人で呟いた。


 「誰がアニキの重荷になるって?冗談じゃないっスよ」

 

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