第12話

 燃え尽きた餓鬼の痕跡はもう既に無く、俺はアニキの背中を追うように着いて行く。闇の中を徘徊するようにして、屋根伝いで移動を開始する。まるで忍者にでもなったかのように。

 そんな移動をしながら追っていると、アニキは足を止めて夜空を眺め始める。


 「アニキ……どうしたんスか?」

 「いや、なんでもない」

 「……」


 たまに、アニキが何を考えているのか分からなくなる時がある。付き合いは長いが、完璧にアニキを理解出来ている存在はあまり居ないだろう。その理由は二つ。

 一つは皆、アニキに何処まで踏み込んで良いものかと考え込んでしまう事。そしてもう一つは、アニキ自身が自分の事をあまり話そうとしない事が理由だろう。

 別にアニキが秘密主義者とか、そういう理由で話さないという訳ではない。アニキはきっと、聞かれなければ何も話さないという性格だ。そして皆、心の何処かでアニキには感謝しかない者が多い。

 だから、考えてしまうのだ。もし失礼を働いたらどうしよう、と。


 「……」

 「考え事か?」

 「ん、いや……」


 そしてそれは、俺も同じ事だ。俺がこうして生きているのは、他でも無いアニキのおかげなのだ。恩を仇で返すような事をしてしまったら?そう考えたら皆、俺も含めて萎縮してしまうのだろう。


 「何を考えているのかは知らないが、お前はオレの右腕なんだろ?右腕がそんなんじゃ、正直困ってしまうな」

 「……毎回思うんスよ。俺、アニキの役に立ってるっスか?」

 「役に立ってる立ってないで言えば、役に立ってるだろうな。……はぁ」

 「アニキ?」


 再びアニキは足を止めたのだが、何やら溜息を吐いていた気がした。俺はその溜息から、呆れたような空気を感じてしまった。振り返るアニキの目は、冷たいモノを纏っているようにも思えたから余計だろう。


 「……お前、まだオレの役に立つ為に生涯を費やすつもりか?」

 「っ……!?」

 「はぁ、やっぱりか。恩を感じるのが悪いとは言わないが、その調子じゃいつか後を任せる奴を選定した方が良いかもな」

 「後を任せるって、アニキはまだ健在じゃ……――!」

 

 そう言い掛けた途端、アニキはまるで出会った頃のような冷たい眼差しを向けていた。それは何度も見た事があり、あの頃の眼差しと同じ物だと一目で理解した。


 「オレはハヤテに任せたいと思ってるんだ。……期待を裏切らないでくれな?」

 「でもアニキ、俺はっ」


 そう声を発した時には、既にアニキの姿を見失っていた。右腕だからこそ、右腕として選ばれた時から知っている。俺はまだ、アニキに縋っているだけだと。

 

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