第8話

 「ハヤテ、手を出さなくて良いの?」

 「構わないと思うっスよ。もうアニキが出てるんで」

 

 電柱の上から下の様子を眺めるハヤテは、目を細めて口角を上げて指差した。そこには炎を纏った少年が、茜の前で立っている。その様子を見たハヤテの隣に居る少女は、溜息混じりに呟く。


 「……ほむら、どうして人間なんか庇うのかな?」

 「さぁ、どうしてっスかねぇ」

 「庇う必要なんか無いのに。人間はボクたちの敵なのに。――っ?」


 拳を握り始めた少女に対して、ナイフを軽く突き付けた。首元に突き付けられたナイフを感じた少女は、視線だけハヤテへと向ける。


 「……どういうつもり?」

 「それ以上、アニキの意志に反した事は言わないで欲しいっス」

 「っ……ん、ごめんなさい」

 「分かってくれて何よりっス」

 「(本気で殺すつもりだった。返事を間違えてたらボクは……)」

 「それよりも、今はアニキの命令に従うっスよ。あの子、回収して欲しいっス。俺は周囲を観察してるんで任せるっス。――それでさっきの言葉は取り消しにするっスよ」

 「ん、分かった」


 少女は小さく呼吸をしてから、電柱から下へと降りて行った。行動に移った少女を眺めながら、ハヤテはポケットに手を突っ込んで口角を上げる。


 「(さて、アニキが動くって事はも反応する。俺はそれを見つけるで良いんスよね?アニキ)」


 細められた目と同時にハヤテを包む空気は変化し、彼の視界では色がネガティブ反転し始める。真下では計り知れない熱量を覆っていて、ノイズが混じるように生物が居るかどうかの判断が出来なくなっている。


 「(アニキの反応はいつも通りっスね。にしてもアニキ、少しセーブしないと後々に影響が出るっスよ)」


 ハヤテは目を細めたまま、そんな事を思いながら眺める。炎に包まれた少年は、目の前で見下ろしてくる化物を見据えている。そんな様子を見た彼は、口角を上げて呟くのであった。


 「まぁ余計な心配っスね。俺らの大将アニキは、そんな柔な存在じゃないっスもんね」

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