第7話
「……はぁ~、やっと追試終わったぁ」
いつの間にかオレンジ色だった空は黒へと染まり、長い間テストをしていたのだと感じさせられる。だけど茜は一つ、違和感を感じていたのである。
「むむぅ……いつもはこの時間、まだ人が居たと思うんだけどなぁ」
静寂に包まれているとはいえ、人の気配は少なからず感じる事が出来る。「ここには誰か居る」というのを空気の流れで、感覚的に人間が感じる事が出来る。
だが彼女が感じたのは孤独。誰も居ないと分かる程の静寂は、恐怖心という感情で身を
「……早く帰ろ」
自然と呟いた言葉と並列して、茜の家へ帰ろうと足早になって行く。だが足早となって進んだ先で、茜はピタッと足を止めた。
『グルルルルルルル……』
「っ……(な、何あれっ!?)」
路上を塞ぐように立つそれは微動だにせず、ただ佇んでいるように見える。だがしかし、茜は咄嗟の事で壁に姿を隠して身体の奥から込み上げた感情に従った。
「逃げなくてはならない」「見られてはならない」という感情に。
「(足に力が入らない……逃げなきゃいけないのに……っ)」
『人間ノ匂ヒ……』
「ひぐっ……(駄目、こっち来ないでっ!)」
自分の身体を抱き締めるように両腕を強く握り、その場で膝から崩れ落ちる。ドスン、ドスンと地響きが近付いて来る。恐怖心は恐怖心をさらに色濃くし、身体の奥底から暗闇が襲い掛かって来る感覚が彼女を包んでいく。
――ドクン、ドクン……。
「(だ、だれか……助けてっ)」
『見ツケタ』
「っ……ひっ……だ、だれかっ!」
ニタァっと笑みを浮かべた表情が、上から見下ろされて影が覆い被さる。その瞬間、彼女の瞳からは光が消えていく。希望が消え、絶望が身を包む。誰も助けてはくれないという思考が働き、彼女は声すらも出せなくなった。
「……――!」
伸ばされた腕。
逃げる事も叶わない。
身体は動かない。
恐怖に溺れてしまった心は、負の感情を膨張させていく。憂い、恐れ、その身すらも滅ぼしていく。彼女が死を覚悟して目を瞑り、迫って来るそれの腕から目を逸らす。
『ヌオッ……!?』
「(温かい。……さっきまで寒かったのに、どうし、て?)」
衝撃が来ないと疑問を感じた彼女は、ゆっくりと目を開けた。
彼女は言葉を失った。恐怖ではなく、目の前の光景に驚いたからである。
「オレの町で、気安く人間に手を出してんじゃねぇよ。――餓鬼風情が」
彼女の目の前には、炎に身を包んだ少年が立っていた。まるで彼女を庇うように。
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