第9話

 『――オマエ、人間カ?』

 

 目の前に居る餓鬼が、オレの事を見据えて問い掛けてくる。オレは火花を散らしながら、口角を上げて答える事にした。


 「さぁ、どうだろうな?」

 『ヌゥ……邪魔ヲ、スルナァァァァァァッ――!!!』


 勢い良く振り下ろされた豪腕は、何も躊躇する事もなくオレへと振られる。ただの人間であれば、受け止めた時点で骨が砕ける程の威力が風圧として周囲を覆う。背後に居る彼女にも、その風圧は届いている事だろう。

 

 『――ッ!?』

 「どうした?刀で受け止められたのは初めてか?化物」


 豪腕を刀で受け止めた瞬間、心底驚いた様子で餓鬼は身を引いた。逃げようとするのか、それとも咄嗟の事で身を引いてしまったのか。あるいはどっちもか。

 そう思いながら、オレは刀ではなく空いていた手で餓鬼の腕を掴み取る事にした。振り解こうとする餓鬼だったが、オレがそう易々と逃がすと思ったら大間違いだ。


 「そう恐がるなよ。相手に失礼だろ?」

 『グゥッ!!離セッッ!!』


 掴まれた腕とは逆の腕で、もう一度オレへと拳を振り下ろす。このまま回避すれば、背後に居る彼女に影響が出る可能性がある。それを理解しているのだろうが、そんな甘い話は何処にも存在しない。

 

 ――オレの敵は全て、蹂躙じゅうりんするのみ。


 「炎蛇えんじゃ。燃やし尽せ」

 『――!?』


 オレの言葉に反応するようにして、周囲で包んでいた炎が動き出す。オレの腕を仲介し、餓鬼の腕から全身へと絡み着こうとうごめく。それ必死に引き剥がそうとしているが、その行動は余計に炎蛇を刺激する結果を生むだけだ。


 「無駄だ。拒めば拒む程、そいつはお前に絡みつく」

 『ゥゥゥッ……クソッ、クソッ……コノ、力、……マサカ、オマエハ!』

 「黙っていろ。テメェに名乗る名前など、オレは持ち合わせてねぇよ」


 徐々に炎蛇に絡み尽くされ、炎に呑まれて逝く姿が目に映る。抗い苦しみながら、オレの事を見据えたまま腕を伸ばしてくる。オレはその手を軽く払い、餓鬼の最期に告げるように呟くのであった。


 「安らかに眠れ。……――」

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