第3話
春に移り変わったばかりの風には、微かな肌寒さと温かさが混ざったような風となっている。温風なのか冷風なのか、その判断が曖昧になってしまう。
そんな風に頬を撫でられながら、昇降口へと消えていった彼女の姿を見届ける。しっかりと校内に入った事を確認してから、人影は肩を竦めて屋上を後にした。
昇降口で外靴から上履きに履き替え、欠伸をする口を片手で隠しながら廊下を歩く。自分の教室を目指して廊下を歩く彼女の目の前から、氷のような瞳を細める女子生徒が近付く。
「おはようございます、由良茜さん」
「あ、お、おはようございます。……綺麗な人」
擦れ違い座間に告げられた挨拶を交わし、クール系と見られる女子生徒が通り過ぎていく。廊下の奥へと進んで行く彼女を眺めながら、由良茜は小さく呟いた。やがて再び教室へと目指して歩き出した由良茜に対して、彼女は目を細めて口角を上げるのだった。
「……なるほど。彼女、という事ですか」
由良茜の背中を見つめつつ、彼女はそう言った。そして彼女も移動を開始して、廊下には誰も居なくなった瞬間に予鈴が鳴り響く。
各担任の教師が教室で生徒たちに声を掛ければ、休み時間のような喧騒が無くなり静寂が訪れる。聞こえてくるのは教師が黒板を叩くチョーク音と自分自身が走らせるペンの音。そして自分の心臓の鼓動のみだろう。
進学校という訳では無いが、それでも授業になると静かな空気に包まれる。そんな静寂に包まれた空間の中で、ただ一人だけ屋上で寝転がる少年の姿があった。
「眠ぃな。……今日は」
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