第12話 8/17 旅行前日
「母さん、どっちがいいと思う?」
「そっち」
旅行前日、母さんに二種類の服で、どちらがいいかを訊いていた。母さんが指したのは、僕から見て右手に持っている、夏らしく爽やかそうに見える白いTシャツだった。
「ありがと」
「ねえ」
僕がリビングの扉を閉めようとしたとき、声をかけられた。
「どっか行くの?」
「言うの忘れてたけど、明日彼女と旅行に行ってくる」
「えらく急だね。どこまで?」
僕は母さんに場所と一泊することを伝えた。
「最近彼女ができたと思えば、もう二人で旅行か。あんた彼女のこと本当に好きなんだね。少し前と比べて、毎日が活き活きしてるよ」
自分では気づかなかったけれど、彼女のおかげで変わった部分があったのだろう。母さんの反応を見ると、変化は良い方向に向いていることがわかる。
「楽しんでくるんだよ」
「うん」
今度こそ僕が扉を閉めようとすると、最後に「ちょっと待って」と言われた。ソファに座っていた母さんが立ち上がり、カバンを探りだした。
「ほら。これで彼女に何か買ってあげな」
そう言った母さんは、僕にお小遣いを渡してくれた。
「ありがとう」
母さんは微笑んで、またソファに座った。見ていたテレビを再開した。
僕は扉を閉め、自分の部屋に向かった。母さんがくれたお小遣いも、彼女のために使えば母さんの元へ返ってくる。彼女のために何かしてあげても、形として残らないことに寂しさを覚えた。
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