第6話 8/8 映画
「よし、映画を観よー!」
栞はそう言って、カバンから一枚のディスクを取り出した。彼女が持ってきたのは、ホラー映画だった。なぜそのジャンルを選択したんだ......。
僕はホラー映画があまり得意でない。徐々に迫り来る恐怖感が苦手というわけではない。唐突に出てくる幽霊なんかに驚かされるのが嫌なんだ。びっくりするな、というのが無理な話だ。
だから僕は、正直ホラー映画を観たくない。しかし、彼女の前で苦手であることを伝えるのは憚れる。弱点を見せたくないのだ。無心になり、映画を観よう。
彼女はウキウキしているけれど、ホラー映画とか全然大丈夫なタイプなのだろうか? そうだとしたら、ちょっと意外だな。めちゃくちゃ怖がりそうなイメージがある。
「か──栞はホラー映画とか平気なの?」
「観たことないですね! だから楽しみ!」
それならもしかしたら僕より怖がってくれる可能性があるな。ビビってくれ!
「秋太くんはホラー映画好きですか?」
「まあまあかな」
素直になれない。見栄を張ってしまう。苦手であることを悟られないように、平然とした顔を貫き通せばいい話だ。それが難しいのだけど。
僕の部屋のテレビに繋がったDVDプレーヤーに彼女はセットした。
ああ、始まってしまう......。目瞑っていてもバレないかな。
「やっぱり、夏はホラー映画ですよねー」
そんなことをつぶやきながら、彼女はリモコンを操作する。僕は背筋が自然と伸びた。
「スタート!」
彼女の掛け声で、始まった。二時間後の僕は、生きているかな?
「秋太くんかわいい」
屈辱! 普通に悲鳴をあげてしまった。本当に早く終わって欲しかったけれど、そう願っているときに限って、時間というのは経つのが遅く感じる。
栞はケロっとしており、映画を楽しんでいた。
「......怖くなかったの?」
「確かに怖かったよ。でも、あの幽霊たちって作りものじゃないですか」
間違ってない。間違ってないけれど、怖いものは怖い。
「それに、ここに幽霊みたいな人が実際いるからね。映画で出てきた幽霊たちは友達みたいな感じ、かな?」
「笑えないんだけど」
「ふふっ。笑ってくれてもいいんだよ?」
栞はお茶目に笑う。
敬語は少しずつ消えかかっている。慣れたものが少しずつ崩れ始めている。僕の呼び方も同じだ。けれど、僕の隣にいる人がもう生きていないことに慣れることはないだろうなと思う。というか、慣れたくない。そう思う。
友達と話すような感覚で喋るけれど、彼女と僕とでは住む世界が違う。誇張なんかではなくて、本当に違うのだ。同じ世界に生きる人、と彼女を認識してしまうわけにはいかない。
ニコニコしながらあと少しとなったポップコーンを食べる彼女を見ていると、どうして死ぬのが彼女だったんだ。どうして僕だけにしか見えないんだ。そんな思いが募ってくる。神様がいれば、僕は恨む。あと数週間後に別れることが、確定しているのならこれ以上仲良くなりたくない。なりたくないのに、彼女に付き合ってしまう自分に辟易する。
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