02 トワイライト村と狂信者(後編)



 そんなシェフィの様子を伺いながら、クランが話を続ける。


「実は、これは今まで秘密にしていた話だが。その村を脱出した村人たちが、扉にまつられていた封印石という品物を持ちだしたらしい。だから、悪魔教は村を破壊するような事はしていないようだ」


 そっか、それは幸いな情報だ。

 シェフィはほっとした様子で息を吐いた。


 でも、希望を持たせることがシェフィにとっていい事かどうかは今は分からない。声からどうなるかわからないのだから。


 クランはタバサに視線を送る。

 タバサはシェフィの隣に移動して肩をたたきながら励ました。


 適材適所だ。


「最悪の事態には陥らなかったが、それでも大変な事態である事には変わりないだろう」


 それで悪魔教の連中は各地で封印石を探しているらしい。村は少し手薄になっているようだ。クランの話から推測すると、逃げた連中以外の村人は生き残っていない可能性が高い。あたし達が乗り込む際に、人質にされる事は、(悲しいけど)ないんだろう。


 シェフィはうつむいて、涙をこらえている。


 任務にあたって不意にシェフィが知る事がないように、今ここで言ったんだろう。


 ここにいるあたし達が心理面でフォローしてやれと、遠回りに言われているようだ。


 タバサが後ろからぎゅっとシェフィを抱きしめている。


 ヒューズは不器用そうにシェフィの好きなお茶を淹れている。


「悪魔教が各地に散って手薄になっている今、すぐにでも、トワイライト村を開放したい所だが……」


 クランはそこで言葉をとめた。

 行動に移るその前に懸念事項があるようだ。


「出来る事なら一つだけでもいいから。封印石を回収しておきたい。拠点に乗り込む際に、彼等の気をひくために。こちらに彼等の弱点があれば、色々と作戦の幅が広がるだろう」


 なるほど。

 それで、アタシ達が先にその石を確保させようって話らしい。


(ん?)


 あたしは、この部隊に配属されるきっかけになった日の事を思い出す。


 もしかして、あたしに城に侵入するように言って来たのって、悪魔教のやつなのだろうか?


「そうだね。その可能性が高い」


 あたしの顔色をよんで、クランがそう答えた。


(うわぁ、まじかよ)


 結果論だけど、あの日盗みに成功してなくてよかった。


(そんなやべーやつの手助けなんてしたくねーよ)


 そう思っていたら、過去にスカウトされた経験のあるヒューズが、神妙な顔で同意するように頷いてきた。


 ならば、もう一人盗みの依頼を受けたっぽい奴がいたが……。


「なぁクラン、ひょとして、宝物庫にザーフィスが来たのって。そういう事か?」


 問いかけに応えるクランは、あたしにきっぱりと告げる。


「そうだ。封印石が目当てだったのだろう。一つこちらで回収できたものがあったのだが、結局は奴らの手に渡ってしまった」


(うぐっ)


 罪悪感が、はんぱない。

 それって、あたしが侵入したせいとかだったりするのだろうか?


(まずいじゃねーか。くそっ、あの時取り逃がしてさえなければ)


 もう起きちまったもんは仕方がねぇ、こんど機会があったら取り返してやる。


「これから、封印石が隠されている場所を伝えていくから、君達はそれをなるべく回収してほしいんだ。頼む」


 なるべくっていうか、絶対に回収してきてほしい、ってニュアンスだった。


 話を終えたクランは、真面目に頭をさげた。


 その様子をみて、他のメンツが固まる。

 もちろんあたしも固まる。


 あのクランが、頭を下げた……。


(えっ、いつもみたいにふざけてない。お前、それだけ本気なのかよ)


 あたしは乾いた口の中を潤すように唾をのみ込んだ。


「ふん、仕方がねーな。金出してもらってんだし、仕方なく協力してやるよ」


 そう言うと他の仲間達も次々と賛同してくれる。


「クランさんは私を助けてくれました、今度は私が助ける版です」

「兄さんがやっかいな仕事を持ちかけてくる事はいつもの事ですしね」

「あたしはまあ、楽しければいっかなー」

「おっさんは気がのらないのよねぇ、でもま長い付き合いだし? やってあげてもいいわよ」


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