アメリアの過去




 ――あなたにとっての過去とは、何ですか?




 そんなの知らねーよ。


 夢に見るほどの過去なんてない。


 だってあたしには、昔の記憶がない。


 記憶にある一番古い景色は、真っ赤に燃える建物。


 おそらく孤児院だった建物が燃えている景色だ。


 あたしは、その燃えている孤児院の前でつたっていた。


 そこから、今のあたしの人生は始まっている。


 だから、それ以前の記憶はまるでない。


 捨てられたのかとか、親と死別したのかとか、そんな記憶もまったくなかった。


 おそらくあたしは、その燃えていた孤児院で育ったのだろう。


 だけど、あたしの友人はどんな顔で、どんな名前だったのかとか。

 その施設の大人達はどんな風だったとかは、まるで分らない。


 どんなに望んでも、これっぽっちも思い出せやしない。

 おそらく一斉に知り合いをなくしたショックで記憶を失ってしまったんだろーな。


 その当時は、愕然としたもんだった。


 でも、それでいいんじゃないかと最近は思えている。


 今の孤児院の施設長マザーは良い人だし。


 孤児院でお世話しているチビ達も、境遇にまけないいい奴等に育ってる。


 だから、あたしはもう、過去に対する執着はそれほどなくなっていた。


 今のあたしにとって大事なのは今、そして未来だ。


 過去なんて、その程度の存在だった。


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