08 スカウト
やはり兵士達はもう一人の不法侵入者であるあたしにけげんな反応をしめした。
あれから、クランの部屋にもどって、あいつの様子を眺めていた。
今さら逃げたら、孤児院に迷惑がかかるからだ。
それで、小一時間くらいかけて、あれこれクランが動くのを見ていたのだが。
城で起こった不法侵入者かつ宝物泥棒であるザーフィスの事は、クランの方でうまく説明したようだ。
あたしは友人として、その撃退に協力したという話で落ち着いた。
けれど、クランは城の関係者から無断で人を部屋に招いたという事でこっぴどく怒られたらしい。
「王子、次回からきちんと護衛のものに話を通しておいてください。あと、見張りの兵士の配置を独断で勝手に移動させないでください」
「ああ、もう二度としないよ」
それに、クランの部屋の前にいた兵士を移動させたことでも起こられていた。
そういえば、不自然だった。
侵入時に、部屋の中で結構話をしてたし、言葉もかわしていたのに誰もこなかったのだから。
(クランはなんでそんな事したんだ? 普段はやってないみたいだけど……)
どんな理由があるにせよ、今日に限ってそれはまずかっただろう。
そのせいでザーフィスを取り逃がす事になったかもしれないのだから。
(あたしとしては、助かってるけどさ)
全部の話が終わるまで、あたしの身柄は丁重に扱われた。
途中から事情説明のため、クランは部屋の外に出て行ってしまったから、あたしは一人で大人しくお留守番だった。
私室で客人待たせるのは、普通なのだろうか?
首をかしげたくなったが、王族の日常なんて分からないのだから、考えても無駄な気がした。
暇な時間であれこれ部屋の様子を眺めてみたが、特に面白みはなかった。
いやみな金持ち風でもなく、普通に適度に金かけてて、適度に洗練された、さっぱりとした部屋だった。
あたしの感想としては、
(個性みたいなもんを感じられない部屋だな)
そんな感じだ。
で、暇なんでソファで待っている内に、朝がきてお客様用の朝食が運ばれてきて、普通にたべてたら、太陽が空の頂点に上るになった。
あらためてクランと話ができるようになったのは昼頃だ。
もともとは朝までに孤児院へ戻るつもりだったのだけど、この分だとまだまだ先になりそうだ。
チビ達に心配をかけてしまっているかもしれない。
ノックの後に、扉をあけて、クランが入ってくる。
書類みたいなものを部屋の机に入れた後、クランが訪ねてきた。
「手荒な真似はされなかったかい?」
むしろ快適すぎる扱いだ。
侵入者にする扱いではなかった。
だからといって、嬉しがったり感謝する気にはなれないので、「別に」と答えておく。
「お前こそ、怪我とかしてただろ」
「軽傷だったからね。ほら、傷跡ももうない」
切られた部分をまくって見せてくる。
言われた通り、まったく傷後がなかった。
「そうか」
クランはお昼ご飯を一緒にもってきてくれたようだ。
二人分のご飯がトレイにのってる。
そういうのって、お世話係みたいなのが持ってくるんじゃないのかよ。
王子っていう割には、なんだかそんな感じには見えない。
「一緒にご飯を食べよう。早く食べないと覚めてしまうよ」
クランはこっちにもご飯を並べてくれるけれど、あたしの内心はそれどころじゃない。
(もっと他に言う事ねーのかよ)
なんで城にいたのかとか、宝を盗む理由はとか。
「お前、王子だったんだな」
「まあね」
相手の口から肯定されると、その事実からはもう逃れようもない
状況から見て、うすうすそうではないかと思っていた。
目の前にいる男は実は影武者。という線もあったけど、それにしては周りに敬われているし、当たり前の様に豪華な私室にいるし。
「何で王子サマが、あたしらの孤児院なんかに顔出してたんだ」
あたしはこれまでの事を思い起こす。
クランは週に一度くらい、孤児院に顔出していた。
用事かなんかで来れない日がたまにあったものの、出会った日からこまめにずっと訪問してくる。
そのたびに、生活用品や食料を持ってくる。
金持ちが善人ぶって善行してる風に認識していたが、王子となると話が違ってくる。
「身分かくしてくる意味あんのかよ」
「王子だったら、外を出歩いてたらいけないのかい?」
「別にそういうわけじゃねぇけど」
だって、普通王子だったらしないだろう。
そんな事は。
王子というのはもっとこう。
城の中で厳重に守られてて、きらびやかでみやびやかな生活を送ってる。
そういうもんだと思っている。
黙っているとクランが話しかけてくる。
「城の者達に君と交友がある事がばれてしまった。だからこのまま簡単に君を孤児院に返すというわけにはいかない」
「……っ」
体に力が入る。
やはり侵入者として牢屋に放り込むつもりなのかと警戒する。
しかし、クランは内心を見通すように首を振った。
「君に罪を問うつもりはないよ。君がどういう目的でこの城へ来たのか、聞かないでおく」
「……」
この城には宝物を盗むつもりできた。
褒められた事でないのは事実だ。
こちらが悪事を働いて見逃してもらっているのに、クランの事をとやかく言う資格はない、という事か。
本心ではすごく気になるが。
あたしは自分の心に気合を入れて、口を開いた。
「なら、王子サマはあたしに何をお望みで? 盗む事しか能がないもんで、育ちの悪い孤児には、出来る事が少ねーからな」
けど帰って来たのは、挑発にのったことばではなかった。
こちらの事を案じるような内容だ。
「そういう事はあまり言わないでほしい。孤児院にいる他の者達が可哀そうだ」
臭いセリフに、あっけにとられてしまう。
自分の発現で大切な人を貶める事になる、と暗に告げられて思わず勢いをうしなった。
その通りだ。
けどしかし、反発心が湧いてくる。
こんな時にひょうひょうとしてられる男の神経が理解できなかったからだ。
(こうみえてもあたしは内心でめちゃくちゃうろたえてるんだぞ!)
知ったかぶりしてんじゃねぇ。と、そんな風に思わず怒鳴りそうになったけれど、何とかこらえた。
しかし、そんなイライラして気持ちを吹っ飛ばすようなセリフ、聞くとは思わなかった。
「竜騎士部隊に欠員が出てるから、君にはその穴埋めをしてもらいたいんだ」
「は?」
二度聞きするあたしの耳を、誰が責められるだろうか。
しかも、クランのその言葉は「もちろんいいよね?」というニュアンスで放たれていたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます