02 飛翔の時
竜舎にいったら、他の兵士達が数名働いていた。
彼等は竜の世話をしているようだった。
体表についた汚れを洗ったり、巣の中を藁を入れ替えたりしている。
そんな世話係の者達にパスカルが気安く声をかけていった。
「あつかれさーん、みんなの様子はどんな感じー」
「タバサ様、みな健康ですよ」
「栄養状態もよく、怪我もありません」
「病気もしてないっす」
ヒューズが竜の状態を聞いて、飛べそうだと判断。
「なるほど、これなら大丈夫そうですね。タバサさん、さっそく準備をお願いします」
「はいはい、りょーかーい。アメリアちんは、よーく見ててね」
「お、おう」
タバサやヒューズは、それぞれの竜の元へ向かって、慣れた様子で道具を取り付けていく。
手際がいい。
手持無沙汰なので、タバサの方を見学する事にした。
鼻歌まじりに作業をこなすタバサがあたしに聞いてくる。
「アメリアちんは、竜に乗った事ある?」
それは、絶対にない。
(普通に考えたらねーよな。人生で一度も乗った事ねーし。記憶を失う前は知らねーけど、たぶんない、と思う)
逆に言えば、この世界で乗った事ない奴の方がダントツで多いはずだ。
そう答えたら、タバサは「うーん」と考える。
「じゃあ、あたしの方にのった方がいいね。ヒューズ君のはちょっと気難しいから」
「飼い主に似るってやつだな」
「そうそう」
部隊で操る竜は、人数分用意されているらしくて、それぞれのメンバーの性格にあった奴が担当……という感じなのだろう。
そういったわけでアタシはタバサの後ろに載せてもらう事になった。
専用の道具をつけてもらって、おっかなびっくり乗車……ではなく乗竜(?)なんだ騎乗か(?)ともかく乗ってみる。
(うわ、バランスとるの難しそうだな)
その状態で、のっそり竜舎の外まで移動してもらい、見晴らしの良い所へ。
そこで竜が羽ばたき始めた。
飛翔体制に入ったようだ。
ちょっとドキドキしてきた。
仕事で建物の高い所に上る事はあるけど、さすがにそんな次元の高さじゃないだろうし。
心臓がばくばくいって、緊張してくる。
手汗がヤバい。
そんなアタシがしばみつくタバサはまったく余裕そうで。
「よった時は言ってね!」
と、声をかけてくれる。
「お、おう」
緊張でかみかみになった言葉に恥ずかしくなりつつも、そんな感情はすぐふっとんだ。
ぐ、と竜が姿勢をおとして、次の瞬間。
空を翼でたたき、身が持ち上がった。
「うわっ」
浮いてる。
ぐんぐん空が近づいてきて、風が体にあたってくる。
目をつむりそうになるのをこらえて、そろりと眼下に視線をむけると、すでに町の景色がゴマ粒みたいになってた。
「すご……」
遠くへ視線をむければ、森林や川、湖、他の町や村、山脈、地平が見える。
世界って広いんだな。
なんとなくそう思っていた。
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