第3章 同僚との仕事

01 初仕事



 妙ちくりんなメンバーがいる竜騎士部隊。

 よく分からない王子の根城に侵入したら、その部隊に引き合わされて、働けと言われた。


 それだけでも驚きだというのに。


(知らん間に、勝手にアタシの心臓が抜き取られていた!!)


 これに怒らない奴がいるだろうか。

 いや、いない。

 絶対いない。

 世界中を見回してもいない。


 そう、断言できる。


(あいつがなんかやったら、アタシまで死んじまうだろーが、何考えてんだよ!!)


 王子が死んだら自分も死ぬ。

 こんなひどい一蓮托生があるだろうか。


 王子が死ななくても、なにかがあって、部屋が木っ端みじんになるような事になったら……。


 間接的に、死亡してしまう。

 そういうわけで、散々心臓を返せと言っているのだが、クランはのらりくらりとかわしてばかりだった。


 






 そんな中、記念すべき、初仕事の日がやってきた。


 心臓ない状態で。


 毎日、竜騎士部隊にあてがわれた宿舎で寝泊まりしているが、気が気じゃない。

 一度なんて、悪魔みたいな姿をしたクランに心臓握りつぶされる夢見てしまった。


(おかげでここ最近いつも寝不足だよ。バカヤロー)


 不満ばかりがたまっていくなか、その日もあたしは竜騎士部隊にあてがわれた部屋でむくれていた。


「はぁー」

「どったのアメリアちん?」


 メンバーが持ち寄ったお菓子が机に慣れんでいるから、部隊の控室っていう感じではない。


 緊張感のない光景だた。


 あたしは、その部屋に集まった面々を見る。彼等は、気にならないんだろうか。


 心臓を人質に取られている、という事をどう思っているのか。


 カイゼルのおっさんは、部屋の隅でうたたねしてるし、シェフィは折り紙をおっている。


 タバサはなんか図面とにらめっこしてる。

 ヒューズは、種類仕事していた。


(のんきすぎんだろ。信じられねー、王子に心臓、監禁されてんのに)


 シェフィは幼いから状況を把握していないのかもしれないが、他の連中の心臓は鋼鉄製かなにか何だろうか。


 そんな事を考えていたら。


「と、そろそろ時間ですね。今回の任務の話をしておきましょう」


 城の他の兵士が働き始める時間にヒューズが立ち上がって、仕事について説明してきた。


 今回の任務は、新米一名に同行者二名の実質三名で行う。


 あたし。そしてタバサとヒューズ。城を案内してくれたコンビだ。


 ヒューズに手渡された紙、かたっくるしい書類にかかれた内容を確認してみる。

 ながめてみたら、新米にぴったりのやっすい仕事だとか書いてあるが……。


 その内容が。


「竜退治とか狂ってんな! あのクソ王子」


 驚く事に、そんな内容だった。


 けらけら笑うタバサは、特に脅威を感じているようには見えなかった。


「あはは、気持ちは分かるけど人が見てるところで言ったら怒られちゃうよ。ここは大丈夫だけど、部屋の外では気を付けないとねー」

「そんな事いったって、実際クソなんだからしょうがねーだろ」


 髪を握りつぶしたくなる。


 部屋の外で自重できるか不安だった。

 それくらいインパクトがある内容だったのだ。


 頭を掻きむしっていると、ヒューズに同情された。


「気持ちは分かります。ですけど、兄はそういうのを喜ぶ達なのであんまり表に出さない方が良いですよ」


 肩をすくめてそんな事を言われる。

 驚きの余り、手から紙が滑り落ちた。


「まじかよ」


 初耳だった。

(人の不幸を喜ぶ人間って、どんだけだよ。王子にしといていい人間じゃねーだろ)


 嘘を言っている風ではない、もしかして想ではないかと思っていたが、弟が言うなら間違いないだろう。そういう性格だったらしい。


(今まで良い奴だと思ってたのに!くっそ、猫かぶりしてたのかよ!)


 手の中から落下した紙を拾う手が震えているのは、もちろん怒りだった。

 それ以外に何があるだろうか。


「クランの奴、しめる。ぜってー、次あったら、しめてやる」


 とまらない愚痴に頭を悩ませていると、シェフィが折り紙をやめてちょっとむっとした顔になった。


「クランさんは良い人です。ちょっと意地悪ですけど、私の事助けてくれました」


 半信半疑な気持ちにしかならない。

 いや、半分も信じる気持ちがないので、ほご疑いの比率だった。


 騙されてるだけなのではないだろうか。


 そう思った。けど、口に出すのは憚られた。


 さすがに面と向かって、いたいけな幼い少女に、言う事ではないだろう。


「とりあえず、アメリアちん。竜舎にいこ! アメリアちんの竜はないから、相乗りだね! ヒューズくんのとあたしのとどっちがいいかな」


 微妙な顔になっていると、タバサにひっぱられて立たされる。


(行きたくねーけど、仕事だしなぁ)


 ため息をつくしかなかった。


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