04 心配





 クランの怪我は深かったけれど、城の医師達が優秀だったらしい。


 一週間後くらいに目を覚ましたクランは、割と元気そうにしていた。








 クランはあたしのせいで怪我をした。

 あたしが弱かったせいで。


 だからいけすけねー奴だけど、様子くらいは見にいってやらないといけない。


 お見舞いに行くと、クランが起きて本を読んでいた。

 手は動かせるから、たまにこいつはこうしてる。


 腹が動かせないから上体もまだ不自由なのに。


 近くのテーブルには紙束の山がある。

 

 これで書類仕事してるみたいだけど、どうやってやってるんだろう。


「元気なさそうだね」

「そんな事ねぇよ」

「そうかな。いつもより顔色が悪い」

「気のせいだ」


 部屋に入るなりクランはあたしの事を案じてきた。

 これでは立場が逆だ。


 あたしはお見舞いに持ってきた果物を、自前のナイフでさくっときり分けた。


「手際いいね」

「慣れてるからな」


 果物があると、いつもチビ達が早く早くと急かすからな。


「良いお嫁さんになれそうだ」

「ぶっ、何言ってんだ。こんな時に」


 こいつはいつでも変な事言わないと気がすまないのか。

 せっかく、今日くらいは親切にしてやろうと思って来たのに。


「お前、なんであたしなんかを竜騎士部隊に入れたんだ?」

「君の事が気に入ってるから、だよ」

「わけわかんねー。何であたしなんだよ」

「どんな逆境にあっても、負けない君に惹かれたから、かな」

「はぁ?」


 いや、めちゃくちゃ逆境にやられて暗殺者なんてもんやってたけど。

 こいつの目にうつるあたしは、なんでそんなお綺麗な事になってんだか。


「君の事は一応調べさせてもらった。闇の仕事をしている時でも、無実の人は逃がしてあげているそうじゃないか」

「だからなんだよ。あたしのやってる事がほめられた事じゃないってのは変わらない。それにきちんと調べられなかった無実の罪の人とやらも、絶対いるだろーしな」

「それじゃ、僕もそうだよ。王子なんてやってると、切り捨てなくちゃならないものがたくさんあるんだ。綺麗事じゃやっていけないからね」


 金持ちってのは楽してるイメージ合ったけど、やっぱりこいつは苦労してるんだろうな。


 王子なのに、任務に同行してる事もあるし。


(まあ、そういう意味じゃおあいこって事なのか?)


 部隊にいる時のこいつは、素の自分のままでいられるんだろうか。


 そうだったらいいなと思った。


(あれだ、人として、だ。特別な感情とかじゃないぞ)


 自分の中で言い訳を考えていたら、話が進んでいたようだ。


「僕は弱いんだ。今でもこの仕事から逃げだそうと考えてしまう」


 ふと、クランがぽつりとつぶやいていた。

 思わず相手の顔を見てしまう。


 それはクランが吐いた弱音だったから。

 初めて聞いた本音だ。


「それでも、昔とある少女と約束したからね。良い王様になってこの国を良くするって」

「そうか。そいつは……」

「死んでしまったよ。色々あって」

「わりい」

「謝る事はない。ヒューズともその時の事で溝ができてしまった」

「でも、心配はしてただろ。戦ってた時」

「そうだったかな」

「そうだった。あたしは見てたぞ。けんかしたってんなら、仲直りしろよ。ヒューズだって、お前と仲直りしてーんじゃねーの?」

「それは、いつかね」


 後まわしにすんなよ。


 話をして体力を使ったのか、クランは少しだけつらそうだった。


「もういく。疲れたんならしっかり休めよ、こんな時くらい仕事なんてしなくてもいいだろ」

「そうしたいのはやまやまだけどね」


 ベッドに横になって目を閉じる。


 近くの棚にドラゴンの置物があった。


 これ、確か病人の部屋にかざっておいていいもんじゃなかったよな。


 竜は不滅の象徴。

 変わらないという意味もある。


 だから怪我の回復を願うなら、おいておいちゃいけないんだが。


 あ、近くにシェフィの手紙があった。


 元気になってくださいと書かれていた。


 一秒で事情を把握してしまうくらい、わかりやすい品物だ。

 それは、受け取らないわけにはいかないよな。

 どうせあのうるさい商人少女、クックあたりが変な事いって、買わせたんだろう。

 後で絞めておこう。


 クランは目を閉じたまま喋らない。

 寝てしまったんだろうか。


 王様になった時、この国で一番偉いのがあいつだとしたら。

 あいつを支えてやれるのは誰なんだろうな。


 なかなか本心を明かさなさそうだから、信頼できるやつがいればいんだけど。


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