07 谷の底



 数日後。


 あたしたちは奈落の谷へ向かっていた。


 シェフィのドラゴンは他のドラゴンより安定した飛行をするみたいだ。

 揺れとか、急激な下降や上昇がすくない。

 それは小さなシェフィを気遣っているからか、もともとの気性なのか。


 ともかく、しばらくの空の旅を終えて、目的地へ到着。


 ドラゴンの背に乗って、ドラゴンがいる谷へおりていく。


 けど、行ってみると予想より暗い。太陽の光があまり届かなかった。


 だから、薄暗くて先がよく見えない。


「少しくらくて怖いです」

「躓かねーようにしろよ」

「お嬢ちゃん、おっさんへの配慮は? ぎゃんっ」

「もう躓いてんじゃねーか、ちゃんとしろよおっさん」

「冷たい!」


 一人、足元がおぼつかない老人がいたけど、放っておく事にした。

 かまったら、うるさくされそうだし。


 あたりを見回してみる。


 あたし達が降りた場所は、比較的広い場所だ。

 だから体の大きなドラゴンでも降りる事ができた。


 でも、谷の各所には細い場所もあるらしいから。ドラゴンはつれていけない。


「ここで、まっていてくださいね」

「くるるぅ」


 だから、シェフィ達がドラゴンに待機するように言って聞かせている。


 風が通る気配がした。

 こういう場所って、空気の流れが悪いイメージがあるけど、ここは大丈夫そうだ。


 変なガスとかもわいてなさそうだし。


 風通しが良くて、じめじめしてないのはいいな。


 そうこうしているうちに暗闇に、徐々に目がなれてきた。


 すると、近くになんかがいっぱいいた。


 おもわずぎくりとしてしまう。


 視界いっぱいに小さくて丸いものが、うぞぞぞぞと動いていた。


 これはあれだ。虫だ。大量の。


「ぎゃゃぁっ」


 思わず悲鳴をだしてのけぞってしまった。


「それは臆病な虫だ。自ら他の動物にはよっていけないから大丈夫だよ」」


 あたしの挙動を見たクランがにやにや笑ってる。


 くそっ。


 むかつく、お前は虫苦手じゃないのかよ。

 虫になれてる王子ってなんなんだよ。


 睨んでいたらクランが手をさしのべてきた。


 両手を。


 おい、なんだそれ。


「だけどもし、姿も見たいくないというなら、目をつむってくれればいいよ」

「その場合動けねーだろ」

「僕が抱っこして運んであげるから」


 そのための両手かよ。

 あたしはその手をぺしんと叩いた。


「オコトワリシマス」


 なんでそんな拷問みたいな事されなくちゃいけないんだよ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る