04 心当たり



 あたしの感想としては、竜なんてそうそう見つかりっこない、と思っていたのだが。


「それなら心当たりがあるよ。流浪の民が情報を教えてくれたからね」


 まるで、未来をしっているかのようなクランのセリフがかえってきた。


「彼等が最近移った場所、今の拠点の近くだそうだ」

「伏線回収はやすぎだろ。まさかそのために、この前いってきたとかじゃないだろうな」

「さぁ、どうだろうね」


 にっこりと笑うクランからは内心が読み取れない。

 こいつ、どこまでも底が知れない王子だな。


「で、どこなんだ? その心当たりってのは」

「奈落の谷と呼ばれる、深い谷の下だ」

「げっ」


 奈落の谷、その場所は知っている。


 この町の西をずっといったところにある谷だ。


 あまりにも谷の幅が広いから、橋を架ける事ができないところ。


 向かいにいくためには、遠回りして迂回しなければならないから、面倒なんだよな。


 商人泣かせの谷なんだとかで有名なのだ。


 けど、奈落の谷とか物騒な名前だ。


(なんつーか。すげー不吉な感じしかしねーんだけど)


 クランを伺うと、ことらの内心を読んだかのように首を縦に降った。


「装備を点検しておいたほうがいいかもしれないね。あそこは狂暴な生き物が多い」

「うげ。……でも、ようやくそれっぽい任務になりそうだな」

「本当なら、危ない目にあわないに越したことはないんだけどね」


 クランはそんなにのり気じゃなさそうだ。

 ドラゴン探すとか言ってた時はちょっと楽しそうだったのに。


「奈落の谷はあまりいい思い出がないんだ。父の仕事で他国へ赴くとなった時、少しあってね」

「ふーん」


 確かクランの両親は、母親が病死していて、父親が怪我でベッドから起き上がれないんだったか。


(別にそんな事知っても。クランに対するあたしの態度は変わんねーけど。優しくなんてするわけねーし)


「じゃ、お前はいかないんだよな」

「どうかな? 必要とあれば僕も行くけど」

「フットワーク軽すぎだろ。もうちょっと大人しくしてろよ」

「そういうわけにはいかないさ。僕には責任がある」


 そういったクランは少しだけ思いつめた表情をしていた。

 普段見ない顔だ。


 なんとなく気持ちがもやもやしてきた。


 なんでだろうな。




 こいつ目を離した隙に、なんだか一人で無茶しそうだな。



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