02 倉庫満載



 寒い。


 流浪の民の拠点へ赴くという仕事から数日後。


 三度目の任務がやってきた。


 けれど、心の中は微妙な心境。


(どういう顔してこなせば良いんだよ)


 仕事が来るって、もっと違う感情がわくはずなんだけどな。


 どうして毎回、風変りな仕事が来るんだろう。


 竜騎士部隊っていったら、もっとこうそれっぽい仕事を想像するだろう。


 ならず者の討伐とか、力仕事のいるものとか。


 心の中で愚痴りながらあたしは作業を続ける。


 とにかく、まわりが、寒い。


 今度はあたしはお留守番だ。


 他の皆は外で、仕事。

 狂暴化したなんとかを駆除するなんとかをやっている。


 だからあたしは、室内で仕事。


 しかし、単純な作業って、きいたんだけど、まさかこんな寒い思いするとはな。


「それは氷室にいるからじゃないかな」


 隣で作業しているクランは涼しい顔でそんな事を言っていた。


 涼しい場所だけに。


(面白くねー)


 なんで、こんな所にいるかというと、隣国からこの国に生物なまものを大量に寄こされたからだ。


 なんの手違いか知らないが、隣国のお偉いさんが間違えてよこしたもんだから、処理に困ってる。


 一応、人々にふるまう事も考えたけど、それだと、普通の店が大打撃だ。


 そういうわけで、使い道が決まるまで、氷室に貯蔵される事にしたのだ。

 お金を使えないほど貧しい連中の腹を満たす分だけは、すぐ放出されたらしいが。


「それでもまだ、こんなにあんのかよ。よこした国、逆に品薄になってねーか?」

「大丈夫みたいだよ。今年は結構質のいいお肉がたくさん並んでるらしいし」

「ならいーけどな」


 作業している倉庫の外。

 重い物を運ぶなら、と言う事でそこにはドラゴンが待機している。

 

 クランのドラゴンだ。

 一緒にのせてもらって、国の倉庫から氷室に何回も往復している。


 けど、寒いし単純作業だし、無駄に体力はつかうしで。


 はぁ、他の連中と一緒に、他の仕事に出かければよかった。


 横にいるのは、こんないかれ王子だし。


 はぁー。






「さて、全て運び込んだが、これからどうしたものかな」


 大量の肉をどうすればいいのか、なんてそんなもん考えた事がない。


 食うものに困ってばかりだった身としては、まったくうらやましいばかりだ。


(自分達で頑張ってくうか、売って金にするか、そんくらいしか思い浮かばねーな)


 けど、愚痴っていてもしょうがないので、頭を働かせてみる。


「捨てるってのはなるべくしたくねーんだよな」

「そうだね。食べ物を無駄遣いするわけにはいかない。けれど、今さらおくり返すのも大変だ。手続きをしているうちに腐ってしまいそうだよ」

「つっても、お偉いさんが頭抱えて悩むような事、あたし等で解決できんのかよ」


 明日の食うものに悩む人間に聞くような事じゃない。間違いなく。

 頼る人間間違えてるだろ。


 なんて考えていたら、「そんな事はない」って言われたけど。

 どこ見て言ってんだよ。


(ちゃんとあたしの経歴みていったのか? おまえの目って、いまいち信用できねーんだよな)


 採用した時にあたしの出自くらいは調査しただろうに。


 少しいらっとしながら、適当に会話をこなす。


「じゃあ、肉くうやつがいねーなら、そいつを探しゃあいいんじゃねーの?」

「お肉屋さんの迷惑にならない範囲で?」


 例えば、一人で無茶苦茶食う奴を探すとか。


 いっそ大食い大会でも催せばいいのでは?


 それか他の家畜に与えるとか。


(ってそれはどうなんだ? 加工する手間がかかりそうだし。家畜のえさを作ってる人間が泣きそうだな)


 倒産させるところを出したら本末転倒だ。


 だめだ、なにも浮かばない。


 しかし、クランは何か思いついたようだ。


「……それだ」

「え?」

「最初に君がいった案がいい」

「最初? なんかいったっけ?」


 クランは「食べる人間を探せばいいって話だよ」と告げてくる。

 いや、無理だ。

 あたしは周囲をみまわしてみた。

 景色が肉の詰まった箱で一色だった。


(ほら、倉庫満載の肉だぞ。これ、どーにかできんのかよ)


 どこからどうみても、人間に食わすには限界がある。そんな量だった


 けれどクランは、とんでもない事を言い出しやがった。


「ドラゴンを探しに行こう。ドラゴンなら簡単に消費してくれるはずだ」


 はぁぁぁ!?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る