08 協力関係



 あのあと、捕まえた奴を連れて行ったら、砂漠の民の頭からあやまられた。


 本当ならクランみたいな身分だけに謝罪すればよかったのに、あたしにまでだ。


 申し訳なさそうな顔で色々と言ってきた。


 やけに丁寧な言葉使いだなと思った。


 あたしは別に特別な人間とかじゃなくて、クランの護衛でしかないのに。


 竜騎士部隊にはいるけど、そんなの流浪の民には関係ないだろーし。


 ぼんやりとしながら、そいつの言葉を聞いていると、変化が起きた。


 流浪の民らしい服装に、少しの装飾品を付けた男性。


 そいつは、優雅な仕草であたしの手をとった。


「俺達の事情に巻き込んで申し訳ない。この埋め合わせは、君にも必ず」


 慌てて聞き流していた話に集中したが、聞き取れたのはそこだけ。


「い、いや。あたしは別に護衛だし」


 後ずさりながらそう言うが、やけに情熱的な視線を向けられた。


 なんだろう、この視線。


 なんかぞわっとする。


 背筋に悪寒のようなものを感じさせていると、クランが割り込んで話を再開させていった。


 なんだか少し怒っているようにみえたような。


 しかし、クランと言い、この男といい。

 どうしてこんなに腰が低いんだろう。

 偉い人間と言うものは、自分より下の人間をみたら、もっと偉ぶる者だと思っていた。


 類は友を呼ぶってやつなんだろうか。


「アメリア、あなたにもありがとう」

「え、ああ。はい」


 あらためて握手されたら、手をにぎられてうっとりとした表情をされた。


(えっなんだこれ)


「美しい手、美しい瞳だ。あなたこそが運命の……」


 なぜか猛烈に嫌な予感に囚われていると、思わぬ所から救いの手が差し伸べられた。


 クランが、あたしの手をつかんでいる男性に近づく。


 そして、その手をとって「お気になさらず。協力関係をむすぶのならば当然のことです。力になれてよかったです」と握手をする流れに持っていった。


 ひょっとして助けてくれたんだろうか。


(いや、まさか。気のせいだな。クランだし)


 流浪の民の頭はにっこりと笑う。


「分かりました、寛大なお心に感謝します。後程、正式な場で今回の事についてみなに伝えておきます」

「ええ、大変でしょうが。あなたの手腕、見させていただきますよ」


 クランと流浪の民の頭は、それから二、三言話してその場を分かれた。


 話し合いのテントから出たら、クランが何の予告もなくアタシの手をとってきた。

 そしてにぎにぎ。


「これで平等だね。いや、あともう一回はやらないと」

「やるかよ。いや、意味わかんねーけど」


 何がした。こいつは。


 ぺしっとクランの手を振り払って、相手を睨みつける。


「もう用事終わったんだろ、帰るぞ」

「そうだね。あまり遅くなると飛竜が待ちくたびれてしまう」

「帰ったら、報告書? みてーの書くんだったか。はぁ気がおもいな」

「大丈夫だよアメリア、僕も教えるし。時間が無くても、ヒューズ達が気にかけてくれるだろうから」

「まあ、あいつらいい奴だしな」


 そこは信用できる。


 あたしにはもったいないくらいの連中だから。


 だから、こんなぬるま湯みたいな日常にひたってると忘れそうになる。


 あたしは本来、こんな立場にいられるような……。


「僕は、こんな場所にいて良い人間じゃないのにね」

「え?」

「なんでもない、一人言だよ」


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