07 怪我の手当て



「これでよし、っと。こんなもんか」


 手をぱんぱんと払う。


 テントでやりあった連中をしばりあげた後、クランの方を見つめる。


 あちらもちょうど拘束したようだった。


 しかし手元をよくみると、赤くなっている事に気が付いた。


「おい、怪我してんじゃねーか」

「ん? ああ、気が付かなかった」


 クランは気が付いていなかったようだ。


(もうちょっと自分の身に気を配れよな。小さな傷でも化膿したら大変な事になるんだからな)


 孤児院のチビ達にも口を酸っぱくして言っている事なんだから、子供でも分かる事だ。


 敵によっては毒をつかう人間もいる。


 できるだけ怪我は負わない方がいいというのに。


「しびれとかないよな?」

「ないよ。大丈夫さ、毒とかはぬっていないはず」

「何でわかんだよ」

「観察眼」

「ふつー、そこまで分かるか?」


 何となく釈然とした思いをしながら、持ってきていた荷物袋を漁る。


「ちょっと見せてみろ。傷薬どこにしまったっけな」

「だいじょうぶ。すぐなおるから」

「そういうわけにいくか。ばい菌なめんなよ。ばっちいんだぞ」

「可愛い言い方だね」

「はぁ? こういう時までそういうふざけた事いうなっての」


 やりとりするより、手当品を探す方が優先なので声だけ呆れさせといた。


(くだらねーことで死なれたら、さすがに寝覚めが悪いし、微妙な気分になるだろーしな)


 消毒薬を持ち、近寄って、手の傷をみてみる。

 意外と傷は小さくて、ぴっとりとふさがっていた。


 もう値は流れていない。


 騒ぐほどじゃないというのは分かったが、それでも一応手当はしておいた。


 傷薬をぬって、ハンカチでくるんでおく。


「ありがと。帰ったら洗ってかえすよ」

「ったく世話やかせやがって」


 孤児院にやってくるときは、こんな風じゃなかった。

 もっとしっかりして、好青年って感じだった。


 なのに、なんでこうなるんだろうか。


 身内と外でかなり変貌するタイプか?


「お前って、皮かぶると厚くなるタイプかよ」


 その猫の皮の厚さ一度はかってみたいくらいだ。

 そうとう分厚いんだろうな。


「演技上手といってほしい。最も、そうするのは君達の前だけでだけどね」


 クランはにこりと笑ったが、鳥肌が立つだけだった。


 そのシンアイ表現は、怖いだけ。


(自分で演技とかいうなよ。もしかして王宮に忍び込んだの、結構怒ってる線あるか? よく考えてみると当然だよな。あっさり許してもらったけど、本来だったら死罪もありえる行動だったんだし)


 それでクランは、こんなドエス変人のふりして、こちらを困らせてる。


 考えれば考えるほどありえそうだった。

 

 そんなクランが部屋の中をしらべて、火薬の入った箱を見つける。


 これがうさちゃんに詰められた奴の出所か。


「彼等は流浪の民だから少し残念だね。僕の所の犯罪者だったら、多少おしおきしても良かったんだけど」


 ドエスオーラを漂わせたクランを見て、アタシは確信せざるをえなくなった。


(いや、やっぱりこれあいつの地だろ)


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