03 怖ぇよこいつ
クラン待ちをしている間、ちょくちょく流浪の民が話しかけてきたから、彼等の事についてそれなりに情報が集まって来た。
流浪の民は、一か所に定住せず、きまったルートを渡り歩いているらしい。
そして、道中にいるモンスターや害獣を狩って、他の町や村などと交易しながら生活している。
そういうわけだから、流浪の民は、結構腕っぷしが強いらしい。
数十人でかこめば、ドラゴンともいい勝負ができるとか。
(みためはすげーのんびりしてんのにな)
ただ生きるために必要な素材をはぎ取るだけだから、むやみに生物を殺したりはしないそうだ。
だから、腕試しがしたくてとかそういう理由でドラゴンのようなツワモノに挑む物好きは今の所いない。
けれど、そんな連中は最近不作で悩んでいるらしい。
定住しないといっても、決まったルートを巡回しているわけだから、土地を耕したり手を加えたりして後から収穫する事があるらしい。
それで、作物を管理していたそうだけど、気候の変動によって実りが減ってしまったようだ。
で、そこであたし達の国の力を借りたいんだとさ。
他にも国はあるみたいだけど、あたし達の所が一番信用できそうだとかなんとか。
けれど……。
(もっと他に適任いるだろ)
クランの顔を思い浮かべてみたが、頼る人間を間違えているとしか思えなかった。
ともかく、そういった事情があるから、クランが流浪の民の拠点へ出向いたと言うわけだ。
でも、砂漠の民は孤高の存在でいなければならない、みたいな決まりがあるらしい。
クランの暗殺を企んでいる連中は、おそらくそういった考えの者達なのだろう。
(どんな組織や集団でも一枚岩ではいかないのは同じなんだな)
と、そんな詳しい事情が分かった後、話し合いを終えてクランがテントから出てきた。
あたしはうさちゃんの事をざっと説明。
クランは思案気な様子になる。
「なるほどね。もうこちらに接触をしてきたか。予想よりはやいな。それで例のものは?」
一応妨害される事は予想していたらしい。
「これだよ。このぬいぐるみ。で、どうすんだ?」
証拠品として、無力化したうさちゃんを見せてやるとクランがうけとって、しげしげと眺める。
そして手慣れた様子でさらに分解。
うさちゃんの影がみるみるあいだになくなって、ただの布と綿と危険物になってしまった。
「そうだな。この危険物は、とりあえず流浪の民の王に渡すさ。向こうにも事情がある」
「へいへい」
「君が無事でよかった。怪我とかはしていないかい?」
「してねーよ」
クランは安心したようにあたしに微笑みかけた。
並みの女性だったら、顔を赤らめるところだろうけれど、あたしはクランの本性を知っている。
そのためか、ただの微笑みなのに、妙に背筋がぞっとした。
「犯人は?」
「もちろん、狩るしかない。おいたした者には、相応の罰をあたえないとね」
「流浪の民に任せるって発想はねーのか」
「確かに組織をまとめきれなかった非はあちらにあるのかもしれないけれど、協力関係を結ぶのなら、見て見ぬふりはできないよ」
ちょっと意外な言葉だった。
普通の善人みたいな内容に驚く。
(そういうところは、義理堅いんだな)
王子として必要な資質というやつだろうか。
普通に話していると、まともに見えるのが不思議だ。
「じゃ、さくっと調査すすめっか。捕まえた後はどうすんだ。こっちでも尋問すんのかよ。それともさっさと引き渡すのか?」
今後の事を考えながら商談交じりに、頭に浮かんだことを口に出した。
「あたしらみたいに心臓ぬきとんのか?」
「まさか、使えないなら連中だから、心臓射貫いた方がいいよ」
ぞわっときた。
(さらっと恐怖発言してくんな)
あたしの鳥肌が立ったのをみて、元気回復したチャイが心配そうな目で見つめてくる。
(それ、たぶん冗談で言ってるとかじゃないんだよな。こいつ、やっぱ怖ぇぇよ)
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