第4章 微妙なすれ違い

01 二度目の仕事



 アタシは今、額から大粒の汗をかいている。


 ぬぐってもぬぐっても出てくるから、キリがない。


 水筒をあおって、水を飲みくだすのはこれで何度目だ。


 頭上から降り注ぐお日様はさんさん。


 ひどく小憎たらしい。


「ぷはっ、ひでー暑さだな」


 どこかの木陰にでも入りたいところだが、あいにくそんな所にはない。


 見渡す景色の中に、人の背丈より高い建物はなかった。


 このまま彷徨歩いていたら、きっととても質のいいミイラになってしまうだろう。


 そんな未来はごめんなので、あたしは同行者であるクランに尋ねる。


「なあ、クラン、本当に道あってんのかよ」

「大丈夫、このまま進めば、たどり着けるよ。彼等を驚かしてはいけないので、竜で行く事ができないけど、もう少しの辛抱だ」

「うへー」


 もうかれこれ三時間。


 竜を近場の町において、砂漠を歩いて渡っている。


 仕事の中で、厳しい環境はいくつか経験してきたけど、こんなに暑いのははじめてだ。


(人間がとけるような気温なんて人生で経験するとは思わなかった)


 なぜそんなところを歩いているのかというと、二度目の任務があるからだ。


 竜騎士部隊の一員となったあたしは、クランと共に流浪の民の拠点へ赴く最中。


 クランが、そいつらを友好を結びたいというので、アタシが護衛としてついていくのだ。


 一人で。


「……」


 暑さで頭が回らないが、普通そこはもっと人連れてくるところだろう。


 なのに、同行しているのはあたしだけ。

 こいつの事は好きじゃない。けれど、さすがにくだらない事で国の王子をなくしたくはない。


 だから「もっと人増やさなくていいのかよ」と言ったのだが。


「これが一番確実な方法だからね」


 と意味深に笑いながら言うばかり。


 まったく意図が分からない。


(流浪の民が警戒心が強いとかそんな感じか?)


 それにしたって、もう一人か二人くらいはついていくべきだろうし。クラン自身が向かわなくてもいいだろうに。


(本当に、考えの読めねーやつだな)


 腹の底が読めない第一王子の顔を盗み見るけど、そこから得られるものは何もない。


 むかつく感情が湧いてくるだけだ。


 空に放っていたチャイが戻ってくる。


 暑すぎてばてたようだ。


 ぐてっとなっていたので水をのませて、外套の中にいれてやった。


 クランの視線に気づく。


「なんだよ」

「いや、羨ましいなと思ってね、僕も小さくなったらそこに入れてくれるかい」

「ばっ。入れるわけねーだろ!」


 この暑い気候の中、そんな頭の湧いた発言ができるのが信じられない。

 怒鳴ってから、体力を消耗するだけだと気づいて、身も心もぐったりする。


 クランは反対に、まだまだ元気だ。

 王子のくせき、過酷な環境に適応力がありすぎる。


「動物が珍しいとかそんなんかよ」

「いや、君の懐に入れるのがいいなって思って」

「くそが! 息をするようにそういうこっぱずかしい事いうな! 暑苦しい!」


 暑さのせいでいつもより口が悪くなっているような気がしたが、暑すぎて自制が着なくなっているせいで、元に戻らない。


 ひょっとしてクランもそうなんだろうか。


 服の下は汗びちょびちょだったら、面白そうだ。


 はぎとって確かめて野郎か。


「どうしたんだい?」

「なんでもねーよ」

「そうか。見とれてたとかそう解釈してもいいのかな」

「んなわけねーだろ。って、暑いんだから喋らすな」


 まともに対応するのも面倒臭くなってきた。


(おまえのみぐるみはがそうとしていたんだよ。言えるわけねー)


 むだ話してるだけでイライラしてしまう。


 なんでこんな目にあっているのだろう。そもそも

 そもそも自分は新入りだ。


 普通はタバサとかヒューズとかを同行者にするだろうに。

 

 不満げな顔をしていると、前に回り込まれていつのかにか頬に手を添えられれいた。


(うおっ、いつの間に)


 暑さでぼうっとしていたとはいえ、不覚をとってしまった。


「アメリア。そんな顔してると、美人が台無しだよ」

「びっ」


 美人とかそんな顔して言うなよ、


 涼しい顔して言いやがって。


 動揺しちまったじゃねーか。


 どうせからかっているだけにすぎないのに。


 あたしはその手をぺしっと叩き落した。


「うるせー。ちょっかいかけんな。話しかけんな。この心臓誘拐犯」

「はは、暑いんだったら喋らない方がいいよ」


(誰のせいだ、馬鹿王子!!)


「くそ、馬でも竜でも獅子なんでもいいから、あいつを蹴り殺すなりなんとかしてくれ」

「何かいったかい?」

「なんでもねーよっ!」


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