05 パーティー



(信っじられねぇ!人の許可なく、人の心臓ぬきとっていいのかよ!!)


 いや、盗賊だから、相手によっちゃ仕事で割とよくやってるが。


(って、いってもあいつは王子だろ?人の上に立つもんがそんな事やってていいのかよ!)


 驚愕の事実を知ったあたしの頭は大混乱だ。

 その頭のまま向かうべき場所にはしっかりと向かっていた。


 たどり着いた部屋の前で扉を乱暴に叩く。


「おい! クラン! どういう事だ!」

「ちょ、アメリアちん、表立っての抗議はまずいよ」

「見張り兵士に聞かれたら大変ですよ」


 だけど、抗議しに行ったものの、私室に入れなかった。


(部屋の前で立ってる兵士がいれてくれないんだよ!)


 王子が居住している区画には、立ち入れないとか言って来た。


(こういう時だけ距離おいてんじゃねー!)


 仕方なく、チャイに手紙とどけさしたら、「それがどうかしたかな?」って返事が返って来た。即刻やぶり捨てた。


(あんのくそ王子! 腹黒王子! 見た目だけ王子!)


 憤慨しながら控室にもどったら、部屋の中が歓迎パーティー用にかざりつけられていた。


 シェフィが頑張ったようだ。


 幼い少女の前でいつまでもカッカしているわけにもいかず、しぶしぶ怒りの火種を消化。


 彼女(手作りしたらしい)が用意した料理を口にほうりこむことになった。


 もぐもぐ口を動かしていると、おっさんが話しかけてきた。


「アメリアお嬢ちゃんだっけ?」

「あ? なんだ、今機嫌悪いの隠してんのが分かんねーのか」

「辛辣! シェフィお嬢ちゃんには優しかったのに」


 だって、おっさんうさんくせーし。

 こんな態度で傷つくような心持ってないだろうし。


 大げさに泣きまねするおっさん、カイゼルを睨みつけると、話が進んだ。


「リリスって名前、心当たりないかい」

「ねーけど、それがどうした」

「いや、なんでも。それならただの他人の空似だ」


 よく分からないが、おっさんはあたしが知り合いに似てるから、妙に警戒していたらしい。


(リリスね。生憎と、アタシの知ってる名前じゃなかったな)


 そもそもあたしには、昔の記憶あんまりないし。


 そんな事考えてたら、シェフィが料理の感想を聞きに来た。


「おいしかったですか?」

「ああ、うまかった。すげーな。プロみたいだった」


 シェフィはぱあっと顔を輝かせて喜んでいる。

 目の保養だだった。無邪気の輝きは偉大だ。孤児院のチビ達と接しているような気分になる。やんちゃな方ではなく素直なチビと、だが。


「良かったです。私、昔の記憶がなくて、皆さんに助けてもらってばかりなので」

「そうなのか」


 思わぬところで、共通点を見つけてしまった。


 なんだかシェフィの事は、他人には思えなくなってしまう。


「えっと、アタシなんかが、ここにどれくらいいられるか分かんねーけど。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いします!」


 小さな手とよろしくの握手をする。

 城の兵士って、もっと堅物ばっかだと思ってたけど、意外とそうでもないのかな。


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