03 弟の存在
一通り自己紹介されたところで、部屋の中で騒いでいた他のメンバーがあたしの存在に気が付いたようだ。
「あれれ、お客さん?」
最初にタバサが近寄ってきて、その後を追うようにへんた……じゃなくて強制女装されそうになっていたヒューズがやってくる。
「聞いてなかったんですか? 昨日兄さん、じゃなくてクランベルン王子が言っていたでしょう?」
二人からしげしげながめられてちょっと居心地が悪い。
(職業が職業だから、人から見られる事にはなれてないんだよな)
盗賊家業をはじめてからは特に。
外出する時も、ちょっと顔を隠すようになってしまった。
(城の中でそれするのは、さすがに命知らずすぎるからしてねーけど)
周りにわらわらと人がたかっている状態だが、一人だけ動いていない。
中年の男性だけは部屋の隅にとどまっているままだ。
「ふーん」みたいなどうでもよさそうな様子でこちらを見ている。
見た目の雰囲気的には一番に冷やかしにきそうなのに。
なんか、警戒してる?
体に若干力が入っているようにめいた。
とりあえずあたしは、そこにいる人物に挨拶すべく口をひらいた。
「あ、アメリアだ。よろしく。ここにきた成り行きは……説明したほうがいいか?」
緊張していたせいか若干噛んでしまった。
びびってるみたいでちょっと格好悪い。
(いや、びびってるのは確かだけど)
そんなあたしの言葉を受けて、代表して答えたのはヒューズだった。
彼は恰好に不釣り合いな真面目な表情を、さらに真面目にさせていく。
「いえ、大丈夫です。兄さんから聞いてますから。災難でしたね」
「え?」
説明が省けたのは良い。
なんてクランが言っていたのかは気になるが。
それよりも、いきなり同情されるような視線をうけて困惑した。
「兄さんはこれと決めたら人の話を聞かないんですよ。それでどれだけ僕達が迷惑をこうむってきたか。おかげで助かった事もあるんですけど」
その言葉を聞いて日ごろのうっぷんの濃さを感じとってしまった。
(普段のあいつは一体なにやってるんだ、あいつ)
なかなか毎日苦労してそうなセリフだった。
まあ、なんとなく昨日で「ただ親切な人」ではないという事は分かって来たけど。
しかし、クランに弟がいるなんて知らなかった。
第二王子がいる事は知っていたけど、ただのクランとしてつきあっていた時はひとことも聞いた事が無かった。
どういうわけなのだろうか。
こうして接してみると、仲が悪いというわけではなさそうなのに。
「まあ、文句は兄さんに直接会ったときに言ってやってください。隙をみて背中に引っ付き虫でも投げつけてやれば嫌がりますよ」
「いや、んな子供みたいな」
確かに引っ付き虫は、知らない間に服にくっついているから嫌だけど。
嫌がらせが低レベルすぎやしないか。
そこまで話していると、タバサが割り込んできた。
あたしの手のひらを無警戒にもぎゅっと握ってきて、人慣れしてそうな表情でにぱっとしながら笑いかけてきた。
シェフィとは違う感じの善人みたいだな。
「まあまあ難しい話は後でいいんじゃない? 新しい人員が入ったんだから、歓迎会でもしようよ!」
その言葉にヒューズが反論。
「それも大事ですけど、まずは城の案内ですよ。その後は、実力の確認、そして任務の話です」
「えー。細かーい」
その間、おっさんはずっと部屋の外でこちらを見つめてくるのみだ。
なんなんだあの人。
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