05 侵入者
そして今日。
依頼人から受けた依頼を完遂するため、城に侵入して宝物庫を目指すところだったのだ。
自分が住んでいる国の王様にケンカを売るような真似だけど、あたしはそんなこと気にしない。
これで、チビ達の食い扶持がかせげるなら、どんな悪だってこなしてやるつもりだった。
(だって、孤児院はいつもお金がないからな)
金欠で必要なものがかえていない時が多いのだ。
で、そんなあたしを補佐してくるのは鷹の相棒チャイ。
怪我してたところを保護して、そのまま孤児院にいついた雄鳥だ。
エサ代はかかるけど、情が湧いて手放せなくなってしまった。
けれど、働きもので役立ってるから、費用が掛かっている分はチャラになっている。
ここまで、相棒のチャイと相談しながら、入念に見張りがいないルートを探して進んできた。
誰かに見つかる事はまったくなかったから、うまくいったと思っていたのだが。
その時までは、ついてると思っていたのだ。
事前調査で、情報屋にも高い金だして、城の中の兵士の配置図とか、教えてもらったから。
だから、さっさと宝物庫に行って、お宝ゲットしてとんずらするつもりだった。
だが、忍び込んだ部屋は王子の私室で、そこに奴がいたのだ
(パチモン情報つかまされた!)
王子がいるハズの場所にいたのは、よく孤児院にやってくる青年。
クランだ。
この部屋にいるという事は、彼はこの国の王子クランベルン・ディ・マナトリアスだったのだ。
あたしは相手の顔を見ながら、意図せず声を発していた。
「クラン、お前王子だったのかよ」
普段ならそんな無意味な事しない。
驚きのあまり、油断してしまっていたのだ。
だから、一気に距離をつめたクランから、腹をなぐられた。
「っ!」
「すまない」
辛そうな声音でクランにあやまられた。
(あやまるくらいなら、殴んなっつーの)
無防備な所に、急所の一撃だ。
意識が暗転してしまう。
「まさか、今日がその日だったなんてね。アメリア……君はここで眠って……」
何か言っているように聞こえたが、詳しくは聞き取れなかった。
意識を取り戻して、数秒。
あたしは、すぐに状況を把握した。
「っ、どうなって……」
孤児院の部屋ではない。王子の私室に倒れていたからだ。
起き上がって周囲を見回すが、まったく警備兵みたいな連中は見当たらなかった。
どうなっているのだろうか?
夢だったというのか?
クランと出会った事は気のせいかと思ったが、腹には鈍い痛みがあった。
なら、この部屋に人がいたのは本当の事のはず。
しかし今の自分は縛られたり、拘束されているわけでもない。
訳が分からなかった。
けれど、ここでぼうっとしているわけにはいかないので、宝物庫へ向かう。
(仕事、とりあえずやらねーとな)
今度ついたは、ちゃんとその場所だ。
それっぽい部屋は、人目につかない所にあるか、建物の奥にあるのがセオリー。
今回はそのどちらも重なる場所だったから、楽に見つかった。
(さて、こっから重要な仕事だけど、なんかトラブルの予感)
部屋の前までたどり着くと、音がした。
目の前の部屋。その扉をあけると、宝物庫で争っている二つの人影が見えた。
一人はあたしと同じ同業者。
何度か顔を合わせた事がある人物だ。
双剣を使っている。
フードで顔は見えないが、身のこなしで知人だと分かった。
もう一人はさっき会った人物、この国の王子サマ、クランベルン・ディ・マナトリアスだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます