04 いい奴



 城にしのびこむその三日前。


 その日は、依頼に向けて準備を進めていた日だった。


 たしは、暗殺道具の調達や手入れを行っていた。


 気持ちのいい作業ではないが、やらなければ命に係わる。


 入念に行っていった。


 それでその後は、孤児院で使う食材の買い出しだ。


 買い物をおこなっている時、噂話を耳にした。

 行きかう人々が不安そうな顔で話をしている。


「おい、またテロが起きたって」

「貧民街のガキ共のしわざらしいぞ」

「紫銀の盾とかいう犯罪者集団だってな」


 人々が口にしているのは、子供ばかりで構成された犯罪組織の事だ。


 紫銀の盾は、金持ちを狙って襲撃をかける組織だ。


 そして、家から金目になりそうな物や食い物などを根こそぎ奪っていくのが常。


 そんな事件が連日頻発していたので、市民達の噂になっているのだろう。


 あたしは仕事が仕事だから、彼等より早く情報を得ていた。


 だから驚きはない。


 しかし、噂を話す人間の口ぶりによっては不快にはなる。

 原因は。


「ったく、嫌な連中だよな。国はとっととそいつらを駆除してくれればいいのに」


 こういった話があるからだ。


 噂話をしていた人間達は、心底迷惑そうな顔をしている。

 人の気も知らずに好き勝手に喋る彼らは、恵まれている事に気が付かないのだ。


 世間には、貧しさで破れかぶれになる連中もいる。


 けれど、その中でもまっとうに生きようとしている連中はいるのだ。

 同じくくりでまとめてほしくない。


(あたしは、真面目な方とは違うけどさ……)






 孤児院に帰ると、荷物が届いていた。

 送り主はクランだ。


 クランはたまにこの孤児院に遊びに来る青年だ。

 どうしてか分からないが、不良に絡まれていたのを助けたら、よく遊びにくるようになった。


 普通は逆の立場になるもんだけろうが、クランは見た目が良い所のボンボンだからよく絡まれるのだ。


 おそらく実際金持ちの家の人間なのだろうけれど、クランの実家の話はあまり知らない。

 クラン自身が話したがらないからだ。


 だから、こちらからは無理には聞かないでいた。


 クランは家の事とか家族の話になると、少し寂しそうな顔をする。

 だから、そんな顔にはなってほしくなかったというのもあるが。


 そのクランの事を思い出しながら、届けられた荷物を開封していたらチビ達がよってきた。


「アメリア姉ちゃん、今日は何が入ってるの?」

「食いもんだな。あと、服」

「やった! 今着てる奴ボロボロだったんだ」


 はしゃいだチビ達が、荷物が届いている事を他のチビ達に教えに言って回っている。


 するとさらにチビ達が襲来してしまうので、邪魔されないうちに荷物をほどかなければならない。


 足音が増えていくのを感じながら、手早く開封してみると、子供用の服や玩具、本が入っていた。


 この間足りないと、この孤児院の管理人・マザーと話していたから、気を使ったのだろう。


(クランは良い奴だ)


 でも、なぜそんなによくしてくれるのか分からなかった。


 あたしはただ、クランを道端で助けただけだ。


 こんなふうにしてもらおうほどの、大層な恩を売ったはずはないのに。


 だから時々戸惑ってしまう。


 相手への好意はあるが、困惑する事が多い。


「クランは一体、何考えてるんだろうな」


 クランの考える事は、そればかりじゃなくていつも分からない。


 一緒にいてもどこか遠いところにいるようで、まるで実体がないように感じられるからだ。


「まあ、考えててもしょうがないか。ほらチビ共、荷物仕分けるぞ!」


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