06 ザーフィス逃走
視線の先で、王子が戦っているという異常事態。
よく考えなくても、かなり一大事だ。
(他の兵士とか護衛はいないのかよ!)
あたりに気を配ってみるが、それらしい人の気配がまったく感じられなかった。
驚くべき事にこの場にいるのは、盗賊のあたし、よくわからない不審者、王子の三人だけ。
そんな状況の中で王子は、不審者と互角の戦いをしている。
「これはお前なんかに渡すわけにはいかないんだ。大勢の命がかかっている。僕の命に代えても、ここから持ち出させるわけにはいかない!」
クランは懸命に戦っていた。
本気、なのだろう。
(おいおい、どういう状況だよ)
クランの体の使い方をみて、緊張した様子を感じる。
一世一代の大舞台かってくらいに、がちがちだった。
相手に向かってふるった剣の先が、かすかにふるえている。
(無理もねーか、王子だし、でも箱入りってわけじゃねーみたいだ……)
兵士としても通用する腕だ。
剣術はよくできているようだ。
流れるような軌跡を描いて、相手の急所へ技を叩きこんでいく。
その様は、一般兵よりもかなり上。
めっちゃくちゃ強かった。
鍛えてるのだろうか?王子なのに。
うまくすれば、漁夫の利を狙える。そう思って、しばらく観察していたのだが、王子サマがあまりに必死こいて大剣振り回してるものだから、つい手を出してしまった。
「くっ」
相手の一撃を受けて、後ろへ下がるクラン。
見れば、腕に切り裂かれた後。
あたしは、その前に立った。
「ったく、危なっかしったらねーぜ」
「アメリア!?」
腕に怪我を負ったクランを見かねて、助太刀に入る。
王子は驚いたみたいだ。
あたしは振り返る事なく勘違いするなと、クランに告げる。
割って入ったのは、目の前のコソ泥に宝物を持っていかれたら大変だからだ。
「その宝はアタシの獲物だ! 横取りさせやしねーよ! それもって、さっさとこの都からとんずらするんだからな!」
持ち主に顔を見られ、正体を看破されてしまった。
こうなったら、孤児院にはいられない。
あっちに迷惑が掛からないように、偽装工作してさっさと目当てのブツと共に、おさらばしなければならない。
けれど、そのコソ泥はアタシをスルー。クランを見つめて嘲笑した。
「女の背中に隠れて、何もできないとはさすが王族だ。少しは骨があるかと思ったが、豪華なイスにふんぞり返ってるばかりのノロマだったようだな!」
あらかさまな挑発行為。
けれどクランはのってしまったようだ。
「なめるな!」
「おい、クラン!」
ムキになったクランは双剣をふりまわし、得意の剣術で盗賊の相手をするんだが、残念な事に敵の方が圧倒的に強かった。
「僕は守られなければならない程、弱くない!」
「はっ」
鼻で笑うザーフィスは近くにあった宝を掴んで、クランに放り投げる。
クランはそれを腕で防ぐが、その宝は鎖のついた魔道具だったらしい。
とっさに身を引こうとしたクランの、剣を持った方の腕に絡みついてしまう。
これでは攻撃できない。
「くっ」
クランは急いでそれを引きはがそうとするが、致命的なロスだ。
その隙を見逃す相手ではなかった。
「俺の名前は、ザーフィスだ。またなお坊ちゃん」
そいつ。コソ泥盗賊ザーフィスは、隙を見て宝物庫の窓(鉄格子つき)を力ずくで砕いて、すたこらさっさと逃げていってしまった。
(人間わざじゃねーな。どんな力してんだよ)
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