第18話 恋心の自覚 4

 ベルンハルトの執務室に行くと、他の三人の側近は既に部屋に集まっていた。扉を開けたフリージに気が付くと、「よお」っと軽い調子で片手を上げるのは国内貴族の統制を取るカールだ。フリージはカールのすぐ横に腰を下ろした。


「皆集まったな。では、私から一点ご報告したいことが──」


 目にかかる短めの藍色の髪を指先で避けながら落ち着いた調子で口を開いたのは、この度めでたく父の跡を継ぎ宰相に昇格したデニスだ。いつも落ち着いた調子で理知的なのだが、先日の『婚前休暇事件』といい、突然突拍子もないことをしたりもする男でもある。


「最近、城下でこれまで見かけないタイプの体調不調を訴える民が増えているようです。リリアナ妃がご懐妊中の今、万が一を考え、陛下は不要不急の城下への散策を控えて頂きたい。私の挙式の際もレオナルドの指揮で民衆に必要以上に近づかない動線を確保する予定です」

「わかった。流行り病か?」

「わかりません。宮廷医と宮廷薬師が調査しております」


 ベルンハルトからの質問に、デニスはわかっている事実だけを短く答える。フリージはそれを聞きながら、カトリーンも『睡眠障害が増えている』と言っていたことを思い出した。


「他には?」

「最近頻繁に王宮で飼育しているワイバーンが傷つく件に関してですが──」


 ベルンハルトの問いかけに次に口を開いたのは、ビシッと軍服を着こんだレオナルド副将軍だ。ハイランダ帝国のワイバーンは主に軍の幹部が乗っているので、管轄も軍が行っている。


「少々不審な点が多いので、飼育エリアに夜間警備を置くことにしました」

「何者かが故意で傷つけているということか?」


 ベルンハルトの視線が鋭いものへと変わる。


「その可能性も捨てきれないということです。ただ、どのワイバーンも大した怪我ではないのでその意図がわかりません。殺してしまわれては軍に相当の痛手ですが、ちょっと怪我をさせるくらいならなんの影響も与えませんから」

「確かにそうだな」


 レオナルドは視線を周囲に移動させたが他の側近も理由は思いつかないようで、特に発言はない。

 その後、フリージも周辺国からの様々な招待に誰を行かせるかや諸外国の動きを簡潔に報告し、最後に口を開いたのはカールだった。


「西部のオーサ地区の領主から、是非陛下にご視察をとご要望が来てます。かの地域は即位以来一度も視察をされていませんので、そろそろ行かれてもいいかもしれません」


 オーサ地区とはハイランダ帝国で第二の都市であり西部の経済のかなめだ。また、国内有数の景勝地としても有名である。


「オーサか。確かに即位前に行ったのが最後だったし、一度行ってもいいかもしれないな。オーサではその病は出ていないのか?」

「現在確認されているのは王都の一部地域のみです」とすぐにデニスが答える。

「ならば安心だな。リリアナにも見せてやりたいのだが、出産前のあまり遅くならない時期に体に負担がかからない日程で調整できるか?」とベルンハルトが問いかける。

「お任せ下さい。なんなら、私がナエラと一緒に、陛下がリリアナ妃とゆったり回れるよい景勝地を調査してまいりましょう。気分が盛り上がって最高に雰囲気がよくなるスポットを事前に調べてまいります」


 カールはキリっとした表情で即答する。

 ちなみにナエラとはリリアナ妃の筆頭侍女で、近くカールが結婚する恋人の名だ。皇后であるリリアナがその視察に同行する場合、筆頭侍女であるナエラも自然と同行メンバーになる。

 その場にいた全員が「お前、絶対それが目的で陛下に進言しているよな?」と心の中で突っ込んだのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る