クビの配達引き受けます #14

「百八十秒ですよ、ザジ」

「わーってる、って!」


 ザジは飛ぶ。目に見えて向上したスラスター推力は、数ブロック離れたヘカトンケイルへ追いつかんとする。


 凄まじい速度。到達まであと何秒だろうか。こちらのハンマーパンチ突撃と同等、いやそれ以上の瞬発力がある――赤い保護シールドの下、ヘカトンケイルのモノアイは冷徹に戦況を分析する。


 状況、不利。撃墜可能性濃厚。されどAIに撤退の二文字無し。何よりヘカトンケイルmk-Ⅵにも、切り札がある。


「おっ?」


 ザジは声を上げる。ヘカトンケイルが構えを解いたのだ。潰れた装甲が引っかかっていたのを、強引に。衝撃で歪んだ指が数本脱落したが、ものともしない。


「見上げた根性だ」


 だが、そこからどうする気なのか。損傷が大き過ぎて打突には使えぬ。ガトリングガンも展開出来まい。そんな状況で――とザジが訝った矢先、それは射出された。

DODODODOOOOOOMMM!!!


 使い物にならぬと思われていた、ヘカトンケイルの四腕。その肘から先が切り離され、ミサイルじみて飛翔したのである。


 アームドブースター。試験搭載されていたその武器に、ザジはバイザー下で目をむいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


何て面白いモノを。

だが用心しなさい。

何でだよサンジュ。

センサーが高エネルギー反応を捉えています。

下手に触れば爆発の危険性があるでしょう。

成程。

だったら。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「下手に触らなきゃあ、イイ訳だッ!」


 コンマ数秒の打ち合わせ。リミッター解除によってもたらされたサンジュとのリンクを元に、ザジは対処行動開始。


 スラスター推力向上。更なる加速。目前。迫るアームドブースター。

 身を捻る。スラスター偏向。重力制御装置調整。再びザジは鉄拳上へ飛び乗った。

 そのまま走る。曲芸じみたスプリント。だが二秒と持たぬ。速度差、何より走るには短すぎる足場。


 故に、ザジは蹴る。アームドブースターを。雷の装甲から、先程同様の攻撃を叩き込みながら。

 ザジは跳ぶ。次のアームドブースター目掛けて。ひしゃげ、ねじくれる蹴落とされた腕。それが爆発する頃には、もうザジは三発目へと飛んでいる。


 直角を描く、稲妻じみた軌道。四発目に到達。全腕撃墜。凄まじき、雷光の現し身じみたAPの挙動。その一挙手一投足を、ヘカトンケイルは解析する。予測する。


 照準を、合わせる。


「ストーム・フォール・ダウン。発動」


 四腕と繋がっていた、ヘカトンケイルの大型マルチコネクタ。その内部に仕込まれていた切り札、多連装光撃曲射砲が、火を噴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る