クビの配達引き受けます #12
この町の上空を、常に覆っている雲の天蓋。本来あるべき成層圏よりも、随分下に垂れこめている分厚い灰色。幾本もの超高層ビル上部を飲み込みながら、時折直角の稲光を閃かせる異様は、アーカイブにしか存在しない神話のよう。
不自然極まりないこれが何なのか、知る者はいない。調べようとする者さえ居ない。それこそ不自然なまでに。
故に。一般人が雲について知っているのは、ただ二つ。
一つ。あの雲自体が、雲上人と自分達を分かつ壁である事。
二つ。時折直線状の稲妻が落ちる時がある事。
そして今日、この時。
一筋の稲妻が、一人のアーマード・パルクール目掛けて閃いた。
標的は、無論ザジだ。サンジュが呼んだのだ。必要な電力を確保するために。
今なお注がれるガトリングガン火線をムーンサルト回避しながら、ザジは右腕を上げる。
その、手首部。増設アーマーを排除したマルチコネクタに、稲妻は落ちた。もとい、吸い込まれた。
熱はない。衝撃もない。
だが、ただ。
どくん、と。
何か、巨大なシステムが脈動する音を、モリスは確かに聞いた。
「充填完了。フェイズ2。アクティブ」
平坦な声で告げるサンジュ。同時にアンリミテッド・アーマーの装甲上、電子回路染みた紋様が一瞬走る。
炸裂。
腰部、両脚部、右腕部。先程運送用の増加装甲を排除したマルチコネクタから、迸る白光。APの体表上で渦巻く莫大なエネルギーは、それ自体に質量があるかのよう。
それ故、ザジを支えるスラスター推力は僅かにブレを生じ。
その隙を、ヘカトンケイルの照準は見逃さない。
BRATATATATATA!!
銃弾、銃弾、銃弾、銃弾、銃弾。嵐のように殺到する弾幕が、ザジの身体をついに飲み込む。
だが。
着弾、二秒前。コネクタから発せられていた雷が、凝縮する。装甲となって脚部を、腰部を、右腕部を包み込む。
雷の、エネルギーの装甲。そこから発せられる何らかの力場が、銃弾を逸らす、逸らす、逸らす。着弾無し。APはまったくの無傷。
原因。威力不足。武装変更。ガトリング以上。
そうした判断をコンマ単位で弾き出したヘカトンケイルAIは、即座に四連ガトリングガン砲身を収納。鉄塊じみた四腕を組み合わせ、ハンマーパンチ突撃。
その時、ザジはビルの窓ガラス上に着地停止しており。
ミサイルじみた大質量は、狙い違わずアーマード・パルクールへと着弾した。
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