クビの配達引き受けます #11

 金属音、金属音、金属音が連続する。振動がモリスの髪を揺らす。だが被弾ではない。あんな弾雨にさらされれば、アンリミテッド・アーマーはともかくモリスの銀箱はクズ鉄となってしまう。

 では、その正体は何か。


 箱の外部カメラと、サンジュから提供されたアーマーのシステム状況データ。二つを同時起動したモリスは、見た。


 ザジの両膝、右前腕、そして腰――銀箱の真下。それらの部位に装着されていた増加装甲、ハンドガンのホルスター、貨物保持用マルチアームユニットが、次々にパージされていくのを。


 ビル間をくるくると舞うそれらは、当然ザジの跳躍についてこれない。全て瞬く間に引き離され、あるものはヘカトンケイルの火線に摺り潰される。


「ああー。分かっちゃいたけど勿体ない」


 壁を蹴る。宙返り。その途上で、ザジは地上を見上げる。バイザーのカメラが捉える映像が、モリスへも中継される。


「この損失、経費に入りますかね?」


 視界が、酷くゆっくりしている。

 回転しながら飛翔するガトリング弾の熱が。

 直下を慌てて飛ぶエアカー運転手の焦燥が。

 路上で酒盛りながら見上げる下層民の顔が。

 その気になれば、つぶさに観察できてしまう。


 思い至る。サンジュとの打ち合わせと同じ状況。だが視界に映るのは現実の光景。リミッター解除に伴って拡張された演算能力が、銀箱のシステムと同期――いや、飲み込みつつあるのか。


「言っただろう? なるべく派手にブッ壊してくれ、と」


 背筋が震える。錯覚だ。努めて、モリスは冷静に続ける。


「mk-Ⅵの性能は概ね分かった。叩き台としては十分だろう。だが旗色が悪いままでは、経費どころかボーナスの領域にもいかないぞ?」

「ああ、いやいや。ちょっとした確認というか、クセというか、そういうヤツですよ。こんな仕事をしてると、踏み倒されかかる事もちょくちょくあるんで、つい」

「小まめな事だな」

「いやいや、ただの貧乏性ですよ。でもまあ、言質も頂いたので……」


 ガトリング弾が加速する。

 時間が、動き出す。


「改めて、お見せしましょう――」


 尚もザジを追うヘカトンケイルの射撃。それをスラスター噴射で引き離しながら、アンリミテッド・アーマーは飛ぶ。上空へ。

 完全に引き離される火線。恐らく十数秒。だがそれで十分。


「フェイズ2! ライトニング・フォームっ!」


 かくて朗々たる叫びが、最後のリミッターを解除した。

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