クビの配達引き受けます #6
+++ CLAUSE +++
「やあやあ遅かったというべきか早かったというべきか何にせよこっちの商談も終わったよつつがなく問題無く手際よくね」
「ホントかよ~? 無駄口のカタマリみたいな性能なのによぉ~」
けらけらと談笑する運び屋達。その背に収まる小さな自分を、モリスは一拍遅れで発見する。次いで、銀箱内側の時計を見やる。時間は驚く程経過していない。仮想空間であれ程話し込んでいたのに、だ。
「認識時間を加速していた、か」
それも恐らくは、相当に派手な立ち回りを行いながら。
立ち上る黒煙。鳴り響くサイレン。銀箱から見える限りでも、爪痕はありありと伝わってくる。
「流石アンリミテッド・アーマー、だな」
改めて感心するモリス。その驚きを知ってか知らずか、ザジは背中を振り仰ぐ。
「そういや今更ですけど、どうしてモリスさんは首だけになってるんです?」
「ああ、そもそも僕は治療の途中だったんだよ。ラティナ家の秘匿施設で、ね」
特有の遺伝疾患、『ラティナの証』。その情報がネットワークで有名にならないのは、ラティナ家が強固な情報統制を敷いているから――というのも無論ある。
だがそれ以上に、治療方法が完全に確立されているというのが大きいだろう。それでは強請りのネタにならないからだ。
「? どういう事です?」
「どうもこうも。細胞に抑制抗体をコーディングした健康なクローンの身体を、元の身体とすげ替えるのさ」
「へえ? そりゃまた随分とカネのかかる治療法ですね」
「当然必然当たり前ですよラティナ家は実に名家名士名門その当主となられるお方となれば治療に万全を期すのは当然必然当たり前でございます」
生体クローニング治療。今日日そんなものは珍しくも無いが、大きくとも精々手足の一本二本というレベルだ。首から下を丸ごとと言うのは、そう聞く話では無い。
「だがその隙を、僕は突かれてしまった。治療には部位に応じた時間がかかる。ましてや僕はこの通りだからな。無能共が無能なりの知恵を絞る時間は、たっぷりあったろうさ・・・む」
「どうしました?」
「見たまえ、あの速報を」
ザジは振り返る。ビル壁面、備え付けの大型モニタ。大画面で宣伝されているのは、新型の自宅警護用セントリーガン。真っ黒い宣伝用ダミー人形「はんにん君2号」が蜂の巣にされるいつもの宣伝映像。その上に、テロップが走っていた。
『ラティナ家当主不在のため、盟約に基づき緊急プロトコル発動』と。
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