クビの配達引き受けます #7
「大分、後手に回ってしまったか」
言いつつ、モリスはネットワークに接続。ざっと情報を洗う。
ニュースサイト。SNS。匿名掲示板。そして今し方切り替わったビル壁モニタの緊急特番。
結論はすぐに出た。
「やはり、当主代行の捻出が始まっているな」
「代行、ですか」
「ああ。現状、当主の権限は僕――モリス・ラティナにある。だがそれは仮のものだ。正式な移譲ではない」
「なるほど確かに治療が終わっていませんからねえ完全に完璧に覆しようも無くつまり現状のモリス様はまだあくまで当主候補であらせられると」
「まあね。その宙ぶらりん状態を解消するために緊急プロトコルを――」
その時、アーマーのセンサーが反応した。接近警報。ザジは見上げる。二時の方向。曇天を背負いながら、急速に近付いて来る機影が一つ。
でかい。エアカーの四倍は軽くあるだろうか。足は無く、腕を四本生やしている、やたら角張ったシルエットの浮遊戦闘マシン。住民達も指差している。
「見た事無いタイプでございますねえ全体的な外観はラティナ家の兵器部門会社が製造しておられます汎用浮遊兵器に酷似していますがはてさて偽装でしょうか新型でしょうか改良型でしょうかその辺どうなのでしょうかモリス様」
サンジュの疑問と同時に、銀箱内側小型モニタが点灯。映った拡大画像をモリスは一瞥。鼻をならす。
「その全部だね。僕も詳しくないけど、あれは恐らく開発中だったヘカトンケイルmk-Ⅵの試作型に、仮の装甲を貼り付けて仕上げた急造品だろう」
同時にモリスは推論を組み立てる。正規のラティナ家私兵部隊ではない。つまりモリスを陥れた敵は、完全にラティナ家を掌握しきれていないと見て良いだろう。
活路はある。間に合うならば。
「で、どうします? 敵対中とはいえ、クライアントの資産相手に立ち回るのはマズかったりするような」
「いや、逆だな」
悪戯っぽく、モリスは笑う。
「良く動いているようだが、所詮まだまだ叩き台のシロモノだ。戦闘データはとれるだけ取っておくのがよろしい。ラティナ家へ僕が帰還した後、ちょっとした交渉カードになるかもしれないしね」
「つまり?」
「なるべく派手にブッ壊してくれ。度合い如何ではボーナスもつけようじゃないか」
「おッホ!」
一オクターブ高い声を出した後、ザジは軽く飛び跳ねる。首を回す。直後、遂に上空へヘカトンケイルmk-Ⅵが到達。
「もっとも、配達が遅れたら元の木阿弥だけどね。やれるかい? アーマード・パルクール殿」
頭上を覆う曇天よりも、なお暗いシルエットを見せつける四本腕。その異様を前に、しかしザジは身じろぎさえしない。
「やぁーりますとも! 張り切らせて頂きましょう!」
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