クビの配達引き受けます #2
白い肌。銀の髪。碧色の瞳。
絵画か、人形か。生命維持装置に収まった、恐ろしく造形の整った少年の首に、しかし動揺の色は無い。
ただ値踏みするように、車内へ侵入したAPを見据える。
「初めまして。僕はラティナ家の現当主、モリス・ラティナという者です。以後、お見知り置きを」
滑らかな声。だが唇は動いていない。装置のスピーカーか。
「おっと、こりゃご丁寧に。握手、はとりあえずまたの機会ってコトでも?」
「構いませんよ。あいにく身体を切らしているもので」
口端を吊り上げるモリス。直後、運転席のコンピュータがけたたましい警報を鳴らす。
「ふむ。飛行システムが壊れたか、それとも新しい追っ手を察知したのかな」
「きっと両方でしょう。で、どうします? 掴んでも宜しいんですかね」
「どうぞ。このままでは商談する事も出来ませんしね」
「んじゃま失礼して」
モリスの脇へしゃがみ込むAP。その背中から無骨なアームが展開し、銀の箱の上部コネクタと接続。おや、モリスは片眉を上げる。
「マルチアーム? アンリミテッド・アーマーにそんなオプションありましたっけ」
「ああ、もちろん後付けですとも。仕事用のね」
アームは畳まれ、銀の箱はAPの背に収まる。同時に車のドアをパンチで破砕。勢いよく跳躍。
DOOOM!!
直後、乗っていたエアカーが爆発炎上した。ロケット弾の直撃を受けたのだ。
回転。スラスター。姿勢制御。見上げる。アスファルトの天蓋。垂れ下がる無数のビル。鍾乳石じみた。その隙間を縫いながら、ルーフを晒す黒塗りのエアカーの群れ。
数は六。先程の同型。別方向を探していた連中が合流した感じか。
「さてさて」
滞空しながら運び屋は考える。急襲には絶好の間合い。だが頭上は市街地。さっき以上に流れ弾や墜落車輌が出る事は明白。これ以上ハデにやらかして商工会から睨まれるのは流石に避けるべきか――。
「ああ、被害なら気にしないで下さい。成功報酬とは別口で、町への損害額全てを受け持ちますので」
「おっとぉ? ソイツは実に嬉しい申し出ですが、宜しいんですか?」
「勿論。それに」
にやりと、モリスは笑う。
「成功率だけなら100%と名高い運び屋ザジ。アナタなら僕を問題無く送り届けてくれるんでしょう?」
「……ふ。交渉成立だなッ!」
かくてラティナ家当主を背負ったアーマード・パルクールこと運び屋ザジは、彗星のように黒塗りエアカー群へ突撃した。
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