クビの配達引き受けます #3
「行、く、ぜっ!」
ブースト。瞬く間に縮むエアカーとの距離。うち五台のルーフが展開し、搭乗者達が一斉にザジを見た。なお残り一台は既にルーフを開けている。先程ロケットを撃ち込んだ車輌だ。
搭乗者は、やはり全員デミヒューマン。滑らかな、しかし機械的な動きで、めいめい武器を構える。
「敵、接近」
「迎撃」
ハンドガン。あるいはロケットランチャー。
引金が引かれる、引かれる、引かれる。
「おっとッ」
スラスター、並びに重力調整。ザジは弾雨を横っ飛びに避わす。無論AP弾程度では、直撃しようとアンリミテッド・アーマーは小揺るぎもしない。だが増設したアーム等の作業用装備にそこまでの性能は無いし、万一でも背中の箱を損傷するワケにはいかない。
「敵、回避」
「迎撃続行」
APを追うデミ共の銃口。その時既にザジの両脚はビル壁を踏み締めている。膝が沈む。脚部スラスターが光る。
「ほッ」
ザジは跳ぶ。逆側のビル目がけ。直後にハンドガン、あるいはロケットランチャーの引金が引かれる。引かれる。引かれる。
BOOOOM!
背後、壁面。ロケットの一発が爆ぜた。だが肝心の標的へは一発も当たらぬ。別の壁、別の看板、別の電柱を、飛び石のように渡りながら近付いて来る。まるで稲妻。アーマード・パルクールの面目躍如。
「敵、更に接近」
「迎撃続行」
尚も冷徹にザジを狙わんとするデミ達。だがもう遅い。一際大きな跳躍と共に、ザジは敵陣へ突貫。到達。手頃な一台のボンネットを踏みしめる。
ハンドガン。両手持ち。量産品。デミ達のと同じ。
違いは二点。AP弾を装填している事。
そして、射撃管制をアンリミテッド・アーマーのAIが担っている事。
故に、照準は既に終わっていて。
ザジは引金を引く。引く。引く。
銃声、銃声、銃声、銃声、銃声が劈く。
エアカーの装甲を、あるいは強化窓ガラスを、デミ達ごと貫通するAP弾の乱気流。
一秒。
区別無く、六台のエアカーに乗っていたデミは全て、白い血を撒き散らして死んでいた。唯一ロケットランチャーを構え右後ろ車輌のデミが、断末魔じみて引金を引く。先程モリスのエアカーを撃墜したのもコイツだ。
射出されるロケット弾。死に体とは言え、機械の補正は正確。尾を引く誘導弾がザジ目がけて迫る。
「ワオ、良い狙い」
ハンドガンで撃ち落とすのは容易いだろう。通常ならば。だが今は出来ない。弾切れてしまったためだ。
大口の依頼が来たからってはしゃぎ過ぎたな――脳裏の片隅で思考しながら、ザジは右腕部複合武装ユニットへアクセス。A・Sブレイド起動。AIが適切に出力調整。
かくて手甲部から発振するのは、一振りの光の刃。ムービーデータから出て来たような長剣を、ザジは振るう。
狙い、間合い、正確無比。ロケット弾は正中線から真っ二つになり、照準も失って中空へと虚しく走る。そして。
BOOOM!
BOOOM!
二つの爆発が、ビルを見下ろす曇天を一瞬照らした。
その一秒後、ザジはスラスターと重力制御を駆使して危なげなく電柱の上へと着地する。
「さてさて、露払いはこんなもんかな。ところで、どうして狙われてるんでしたっけ?」
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